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転写因子IRF4は結合するDNA塩基配列を変えることにより胚中心B細胞あるいは形質細胞への分化の運命を決定している

2013年6月6日

落合 恭子
(米国Chicago大学Departments of Molecular Genetics and Cell Biology)
email:落合恭子
DOI: 10.7875/first.author.2013.073

Transcriptional regulation of germinal center B and plasma cell fates by dynamical control of IRF4.
Kyoko Ochiai, Mark Maienschein-Cline, Giorgia Simonetti, Jianjun Chen, Rebecca Rosenthal, Robert Brink, Anita S. Chong, Ulf Klein, Aaron R. Dinner, Harinder Singh, Roger Sciammas
Immunity, 38, 918-929 (2013)

要 約

 転写因子IRF4は抗体アイソタイプスイッチDNA組換え反応および形質細胞の分化に必須である.この制御機構はIRF4の濃度に依存しており,IRF4はその細胞内における濃度に応じてB細胞と形質細胞の相反する遺伝子発現プログラムを活性化する.筆者らは,IRF4が胚中心B細胞の分化にも必須であることを見い出した.すなわち,in vivoにおける低濃度でのIRF4の発現は,胚中心B細胞に発現するBcl6遺伝子およびAicda遺伝子の発現を誘導した.一方,持続的な高濃度でのIRF4の発現は形質細胞への分化を誘導し胚中心B細胞への分化と拮抗した.こうしたIRF4の機能は,分化にともなうIRF4の濃度に依存して,IRF4の結合するDNA塩基配列が変わることにより制御されていた.IRF4は転写因子PU.1とともにEICE配列,および,転写因子BatfとともにAICE配列と結合するが,これらの転写因子と結合するDNA塩基配列をもつ遺伝子はB細胞の活性化および胚中心B細胞の分化に関与している.しかしながら,IRF4が高濃度の状態ではIRF4の結合するDNA塩基配列はISRE配列へと変わり,ISRE配列をもつ遺伝子の多くは形質細胞への分化に関与していた.筆者らは,IRF4の濃度に依存して活性化B細胞の運命が決定されるという“キネティクス制御”モデルを提唱しており,この研究は,このモデルを機能的に裏づけるものであった.

はじめに

 抗原の侵入にともないT細胞や樹状細胞の抗原提示能により活性化されたナイーブB細胞は,胚中心B細胞あるいは形質細胞へと分化する.B細胞の活性化は抗原特異的な抗体の産生において重要であり,転写因子の機能解析によりその分化誘導の機構について多くが明らかになってきた.たとえば,形質細胞への分化において重要な転写因子としてBlimp1,Xbp1,IRF4があげられる1).一方,胚中心B細胞への分化にはBcl6,Pax5,Bach2,Obf1などの転写因子が必要であり,Blimp1とBcl6は相互にその発現を抑制しあう1).こうした互いの負のフィードバックは,胚中心B細胞と形質細胞というまったく異なる遺伝子発現プログラムの実行のために重要である.しかしながら,胚中心B細胞から形質細胞への分化の移行の機構についての理解は乏しい.この点においては,IRF4が重要な機能を担っていると考えられる2,3).IRF4は抗体アイソタイプスイッチDNA組換え反応および形質細胞の分化に必須であり,抗体アイソタイプスイッチDNA組換え反応に必須のAIDと形質細胞の分化に必須のBlimp1の発現をそれぞれ誘導する.筆者らは,このしくみを説明するモデルとして,IRF4の濃度により抗体アイソタイプスイッチDNA組換え反応および形質細胞の分化の異なる細胞状態が制御されるという“キネティクス制御”(kinetics control)モデルを提唱してきた3,4).それでは,細胞内におけるIRF4の濃度が相反する胚中心B細胞と形質細胞という遺伝子発現プログラムをいかに制御しうるのか,次世代シークエンサーを用いて,その分子機構を明らかにした.

1.IRF4はin vivoにおいて胚中心B細胞の分化および形質細胞の分化の両方を制御する

 胚中心B細胞の分化におけるIRF4の関与について検討した.野生型およびIRF4欠損型の前駆細胞のキメラ骨髄を用い,骨髄移植を行ったマウスにT細胞に依存性の胚中心B細胞の分化を誘導するヒツジ赤血球を免疫した.すると,野生型の前駆細胞に由来するB220陽性画分では胚中心B細胞への分化が認められたのに対し,IRF4欠損型の前駆細胞に由来するB220陽性画分では胚中心B細胞は欠損しており,また,Bcl6の発現も認められなかった.以前の研究において筆者らは,胚中心B細胞の分化にはIRF4は必要ではない可能性を示唆した5).しかしながら,当時,使用したマウスはCγ1-Creを用いたコンディショナルノックアウトマウスであり,このマウスでは抗原刺激ののちにIrf4遺伝子がノックアウトされるため,胚中心B細胞の分化における関与を検討するにはタイミングが遅くIRF4が残存している可能性があった.そこで,CD19-Creを用いたコンディショナルノックアウトマウスを用いてより早期でのIrf4遺伝子のノックアウトを行ったところ胚中心B細胞の分化は減弱したことから,IRF4は胚中心B細胞の分化に必須であることが明らかになった.
 in vivoにおけるIRF4によるBcl6およびObf1の制御について検討するため,B細胞がニワトリ卵白リゾチームに対して抗原特異性をもつSWHELマウスを作製した.野生型のSWHELマウスおよびIRF4欠損型のSWHELマウスより採取したCD45.2表面マーカーをもつB細胞をCD45.1マウスへと移植し,中程度の結合親和性をもつニワトリ卵白リゾチームをカップリングしたヒツジ赤血球を免疫した.4.5日後,野生型のSWHELマウスにおいてIRF4およびBcl6の発現を検討したところ,IRF4低発現Bcl6陽性およびIRF4高発現Bcl6陰性の2つのサブセットが観察され,前者は胚中心B細胞,前者後者は形質細胞を含むものであった.一方で,IRF4欠損型のSWHELマウスではBcl6を発現する細胞および形質細胞の前駆細胞はともに形成されず,野生型のSWHELマウスと比較しBcl6遺伝子,Pou2af1遺伝子(Obf1をコードする),Aicda遺伝子,Prdm1遺伝子の転写が顕著に減弱していた.これらの結果は,in vivoにおいてIRF4は抗原のシグナルとT細胞の抗原提示により誘導されるBcl6発現細胞の形成に必須であること,そして,抗原刺激により誘導されるIRF4の発現により,胚中心B細胞と形質細胞とがそれぞれに誘導されることを示した.この研究ではさらに,一過性のIRF4の発現が胚中心B細胞の分化において十分であり,持続的かつ高濃度のIRF4の発現は胚中心B細胞の分化を終了させ形質細胞の分化を誘導することをin vivoの系を用いて証明した.

2.IRF4はその濃度に依存して結合するDNA塩基配列が変わる

 転写因子は結合する特異的なDNA塩基配列を介して標的遺伝子を制御する.そこで,B細胞受容体の刺激に依存的に高頻度の抗体アイソタイプスイッチDNA組換え反応および形質細胞の分化を誘導できる系を用い3),胚中心B細胞および形質細胞への分化の誘導に関与しうるIRF4の結合するDNA塩基配列の網羅的な探索を試みた.分化誘導の初期(IRF4は低濃度)および分化誘導の後期(IRF4は高濃度)において,IRF4およびそのパートナータンパク質として知られるPU.1について,次世代シークエンサーを用いたChIP-seq(クロマチン免疫沈降-シークエンシング)解析を行い,IRF4の結合ピークを,PU.1の結合部位と一致するタイプとPU.1の結合部位とは一致しないタイプとに分類した(図1).おのおののピークに含まれるDNA配列を解析した結果,PU.1の結合部位と一致するタイプには分化誘導の初期および後期とも,高頻度でEICE配列が認められた.着目すべきはPU.1の結合部位と一致しないタイプのDNA配列の解析であり,ISRE配列とAP-1結合配列の2種類の異なる転写因子と結合するDNA塩基配列がみられた.それぞれの配列の特徴は,ISRE配列は2つのIRF結合配列(GAAA)のあいだに2塩基が存在しており,AP-1結合配列は結合ピークのほぼ中央に位置し,その近傍または4塩基離れてISRE配列の存在するAICE配列であって6),転写因子としてBatfとIRF4の共結合が認められた.興味深いことに,分化誘導の初期および後期ではISRE配列とAICE配列の頻度が逆転しており,分化誘導の初期ではAICE配列の頻度が高く,分化誘導の後期ではISRE配列の頻度が高かった.これはIRF4の濃度と深い関連性があり,IRF4のISRE配列への結合は低親和性であることから,IRF4は高濃度でのみホモ二量体を形成しISRE配列へと結合することが明らかになった.

figure1

3.IRF4の結合するDNA塩基配列および遺伝子の発現制御の3つのモード

 IRF4の濃度に依存したIRF4の結合するDNA塩基配列は,胚中心B細胞と形質細胞の異なる遺伝子発現プログラムの制御と関連性があるのだろうか.すでに明らかになっている,ex vivoにおける抗原に特異的な形質細胞および胚中心B細胞のトランスクリプトーム解析データを用いて7),分化誘導の初期および後期においてIRF4の結合するDNA塩基配列をもつ遺伝子との比較解析を行った.その結果,以下の3つのモードのDNA塩基配列および遺伝子の発現制御の様式を見い出した.1)EICE配列(PU.1とIRF4とのヘテロ二量体が結合):2/3をしめるドミナントなモードで,B細胞の機能と活性化に関与する遺伝子を制御している.2)AICE配列(IRF4とBatfとのヘテロ二量体が結合):分化誘導の初期において高頻度に検出され,B細胞受容体の刺激に依存性のB細胞の活性化の初期に機能する遺伝子を制御している可能性がある.3)ISRE配列(IRF4ホモ二量体が結合):分化誘導の後期において高頻度に検出され,形質細胞を活性化する遺伝子の多くを制御している.

おわりに

 細胞内における転写因子の濃度が細胞分化の運命を決定する.この概念は,細胞分化の制御機構として広く受け入れられてきたが8),生体レベルにおける証明は困難であった.この研究では,数種のマウスモデルを組み合わせ,異なる細胞内IRF4濃度をマウスの生体において再現することにより,低濃度のIRF4および高濃度のIRF4がそれぞれ胚中心B細胞の分化および形質細胞の分化を誘導することを示した.さらに,こうしたIRF4の濃度の違いは,濃度に特異的なIRF4の結合するDNA塩基配列を介して胚中心B細胞または形質細胞に特異的な遺伝子発現プログラムを制御していた.
 転写因子は,ときに種々の細胞において発現しつつも細胞に特異的な機能をもつため,転写因子が異なる細胞のあいだでいかに細胞に特異的な遺伝子発現プログラムを制御するかについてはたいへんに興味深い.たとえば,IRF4はT細胞の分化にも重要な機能をもち,その結合するDNA塩基配列としてあげられたAICE配列はT細胞の分化における遺伝子発現プログラムにも関与する6).IRF4がB細胞とT細胞とで異なる遺伝子発現プログラムを制御する分子機構のひとつの可能性として,T細胞では転写因子PU.1およびそのファミリーであるSpiBの発現が認められないため,B細胞ではEICE配列がドミナントな転写因子と結合するDNA塩基配列であったが,T細胞ではAICE配列がドミナントな転写因子と結合するDNA塩基配列として機能していることが考えられる.このように,転写因子には細胞に特異的に機能するパートナータンパク質が存在し,その組合せが結合するDNA塩基配列を介した細胞に特異的な遺伝子発現プログラムを制御していることが示唆された.
 近年,細胞に特異的な遺伝子発現プログラムを制御する転写因子結合部位の様式として,“スーパーエンハンサー”の存在が報告された9).スーパーエンハンサーは高頻度に密集する転写因子と結合するDNA塩基配列により,局所に高濃度の転写因子およびその複合体をリクルートする.さらに,その機能は転写因子の濃度に感受性をもつため,細胞分化の時期に特異的な遺伝子の高発現状態を生み出すことが可能になる.筆者らの研究とこの報告とがひとつの契機となり,今後,細胞に特異的かつ細胞分化の時期に特異的に機能する転写因子の組合せが,結合するDNA塩基配列の網羅的な解析により明らかとなることが大いに期待される.

文 献

  1. Nutt, S. L., Taubenheim, N., Hasbold, J. et al.: The genetic network controlling plasma cell differentiation. Semin. Immunol., 23, 341-349 (2011)[PubMed]
  2. Sciammas, R., Shaffer, A. L., Schatz, J. H. et al.: Graded expression of interferon regulatory factor-4 coordinates isotype switching with plasma cell differentiation. Immunity, 25, 225-236 (2006)[PubMed]
  3. Sciammas, R., Li, Y., Warmflash, A. et al.: An incoherent regulatory network architecture that orchestrates B cell diversification in response to antigen signaling. Mol. Syst. Biol., 7, 495 (2011)[PubMed]
  4. Muto, A., Ochiai, K., Kimura, Y. et al.: Bach2 represses plasma cell gene regulatory network in B cells to promote antibody class switch. EMBO J., 29, 4048-4061 (2010)[PubMed]
  5. Klein, U., Casola, S., Cattoretti, G. et al.: Transcription factor IRF4 controls plasma cell differentiation and class-switch recombination. Nat. Immunol., 7, 773-782 (2006)[PubMed]
  6. Glasmacher, E., Agrawal, S., Chang, A. B. et al.: A genomic regulatory element that directs assembly and function of immune-specific AP-1-IRF complexes. Science, 338, 975-980 (2012)[PubMed]
  7. Luckey, C. J., Bhattacharya, D., Goldrath, A. W. et al.: Memory T and memory B cells share a transcriptional program of self-renewal with long-term hematopoietic stem cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, 3304-3309 (2006)[PubMed]
  8. DeKoter, R. P. & Singh, H.: Regulation of B lymphocyte and macrophage development by graded expression of PU.1. Science, 288, 1439-1441 (2000)[PubMed]
  9. Whyte, W. A., Orlando, D. A., Hnisz, D. et al.: Master transcription factors and mediator establish super-enhancers at key cell identity genes. Cell, 153, 307-319 (2013)[PubMed]

生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.

著者プロフィール

落合 恭子(Kyoko Ochiai)
略歴:2007年 広島大学大学院医歯薬学総合研究科博士課程 修了,同年 東北大学大学院医学系研究科 博士研究員,同年 米国Chicago大学Research Associateを経て,2011年より東北大学大学院医学研究科 助教.
研究テーマ:細胞分化における遺伝子発現の制御機構.
抱負:温故知新の精神,かつ,型にとらわれない発想により,新規の分子機構を解明したい.

© 2013 落合 恭子 Licensed under CC 表示 2.1 日本


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