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First author's

種間関係の多様性が生態系をささえる

2012年8月3日

舞木昭彦・近藤倫生
(龍谷大学理工学部 環境ソリューション工学科生態マネジメント分野)
email:舞木昭彦近藤倫生
DOI: 10.7875/first.author.2012.099

Diversity of interaction types and ecological community stability.
A. Mougi, M. Kondoh
Science, 337, 349-351 (2012)

要 約

 地球上に生息する多種多様な生物はさまざまな相互作用により結ばれている.しかし,この生物群集が維持されているしくみは解明されておらず,生態学に残された大きな謎であった.この研究では,これまで見逃されてきた“種間関係の多様性”が生態系をささえるうえでの鍵となっていることを,数理モデルの解析により世界にさきがけ示した.種間関係が食う-食われるに代表される“敵対的な関係”や互いを助け合う“相利的な関係”のいずれかにかたよると生態系は維持されにくくなるが,両方の種間関係が適度に混ざり合うことで複雑な生態系が維持されやすくなることがわかった.このことは,生物多様性は,それ自体の特徴である種の多様性だけでなく,種間関係の多様性により維持されていることを示唆した.生物多様性の保全には,生物種のみならず種間関係にまで目をむける必要があるのかもしれない.

はじめに

 近年,人間による生物搾取や環境破壊などにより地球上の多くの生物種が急速に失われており,生物多様性の喪失を食い止め回復させることが急務となっている.しかし,生物多様性の保全を成功させるには,まず,生態系が維持されるしくみを理解する必要がある.
 生態系では多くの生物種が互いにかかわりあいながら生息しているが,そこでは,特定の生物種が急に大発生したり生物種がつぎつぎに絶滅したりといった個体数の大きな変動はあまり生じない.自然には個体数の大きな変動を抑制するなんらかの自己制御機構がはたらいているものと考えられる.この“生態系の維持のしくみ”がわかれば,人間活動にともなう生物多様性の喪失を食い止めることが可能になるかもしれない.しかし,そのしくみについてはよくわかっていないことが多くある.
 未解決の問題のひとつは,生態系の“複雑性と安定性”にかかわるものである.現実には,多くの生物種が複雑なかかわりあいのなか共存しているが,これは自明なことではない.古くは1972年の報告より1),多くの理論研究において,生物種の数が多いほど,そして,種間関係を結んでいる生物種のペアの数が多いほど,生態系は保たれにくくなることが予測されている.しかし,現実の生態系においては,非常に多くの生物種が複雑な相互作用を保ちつつ共存している.この理論と現実とのあいだのギャップは,生態系の維持の機構にはまだわかっていないなんらかのしくみがはたらいていることを示唆している.生態系の維持のしくみを解明しようとする試みはこれまで数十年にもわたり多くの研究者らによりなされてきたが,なお,解明されていない.

1.種間関係の多様性を考慮した数理モデルの開発

 この研究では,複雑な生態系が保たれるしくみを解明するため,これまでの研究では見逃されてきた“種間関係の多様性”に着目した.生態系では,多様な生物種が存在するだけでなく,それらの生物種のあいだに多様な関係が成り立っている.たとえば,鳥の仲間が昆虫を食うといった,一方が他方から搾取する敵対的な関係(食う-食われる関係)もあれば,植物とその花粉を運ぶ昆虫とのあいだに成立するような,互いに助け合う関係(相利関係)もある.これまでの研究では注目されることのなかったこのような種間関係の多様性こそが,生態系をささえる鍵なのではないかと考えた.そこで,種間関係の多様性が生態系の維持にあたえる影響を評価するため,数理モデルを開発した.この数理モデルでは,多くの生物種が互いにかかわりあいをもっており,ほかの生物種の影響をうけ個体数の増減するようすを記述した.また,この数理モデルには相利関係と敵対関係の両方が含まれており,さらに,その混合の比率を変えられるという従来の数理モデルにはない新しい特徴を備えた.

2.異なる種間関係の比率が生態系の維持のしやすさにもたらす影響

 この数理モデルの解析の結果,敵対関係と相利関係との“混合比率”が,生態系の維持のしやすさに大きな影響をもたらすことがわかった(図1).まず,敵対関係と相利関係とがどちらか一方にかたよっていると,生物種の個体数の変動の安定性は低くなり生態系は維持されにくくなった.しかし,両者がほどよい割合で混ざっていると,生物種の個体数の変動は小さく抑えられ生態系の安定性は高まった.この結果は,種間関係の多様性が生態系を維持するうえで鍵となることを示しただけでなく,これまでの生態学における,食物網(食う-食われる関係のみで構成された生態系)などひとつの種間関係のみにもとづくアプローチの限界を示唆した.

figure1

3.種間関係の多様性が複雑性と安定性のパラドックスを解決する

 さらに,敵対関係と相利関係とがほどよく混ざっていると,これまで生態系を不安定化させると信じられてきた生態系の複雑性(種の数が多い,および,関係を結んでいる生物種のペアの数が多い)は,逆に,安定化の効果をもつことがわかった(図2).種の数が多いほど,そして,関係を結んでいる生物種のペアの数が多いほど,生物種の個体数の変動は小さくなり生態系の安定性は高まった.生態系が複雑なのは周知の事実であり,従来の理論ではそのことを説明できなかったが,自然界にありふれた種間関係の多様性を考慮すると,複雑性により生態系の安定性は促進される.これらの理論予測は,ほかの種間関係である競争関係の存在や,種間関係のネットワークの構造など,いくつかの前提を変えて数理モデルを解析してもつねに導かれただけでなく,数学的な解析によっても示された

figure2

おわりに

 この研究の結果は,“何が複雑な生態系をささえているのか”という未解決の大問題に対し,“種間関係の多様性”というひとつの答えを提示した.このことは,生態系における生物多様性の保全を進める際には,“どのような生物が存在するか”のみならず,“生物は互いにどのような関係を築いているか”という種間関係に着目する必要のあることを示した.この研究の理論予測では,多様な生物種と同時に多様な種間関係が存在してこそ生態系はささえられることになった.近年の急速な生物多様性の喪失の対策として,絶滅の危機にさらされた生物の保護や人工飼育あるいは遺伝子の保管など,生物種それ自体のみに着目した生態系の再生がしばしば議論される.しかし,生物多様性の保全には,それでは不十分かもしれない.種間関係の多様性が生物多様性の維持の鍵であるならば,生物種だけでなく生物種のあいだの関係性にも目をむけ,どのような生物種がどのような関係を築いているのかを明らかして,“生物種そのもの”だけでなく,“種間関係”を維持するための方策について考える必要があるだろう.

文 献

  1. May, R. M.: Will a large complex system be stable? Nature, 238, 413-414 (1972)[PubMed]

生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.

著者プロフィール

舞木 昭彦(Akihiko Mougi)
略歴:2008年 北海道大学大学院水産科学院 修了,同年 九州大学大学院理学研究院 研究員を経て,2011年より龍谷大学理工学部 博士研究員.
研究テーマ:生態系の維持の機構の理論的な解明.
抱負:複雑な自然界をみとおせる単純な理論を提案したい.

近藤 倫生(Michio Kondoh)
龍谷大学理工学部 准教授.

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