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転写因子Sox4はTGFβシグナルの標的として誘導され2型ヘルパーT細胞の分化を抑制する

2012年7月19日

桑原 誠1,2・山下政克1,2・中山俊憲2
1かずさDNA研究所 ゲノム医学研究室,2千葉大学医学研究院 免疫発生学)
email:中山俊憲
DOI: 10.7875/first.author.2012.088

The transcription factor Sox4 is a downstream target of signaling by the cytokine TGF-β and suppresses TH2 differentiation.
Makoto Kuwahara, Masakatsu Yamashita, Kenta Shinoda, Soichi Tofukuji, Atsushi Onodera, Ryo Shinnakasu, Shinichiro Motohashi, Hiroyuki Hosokawa, Damon Tumes, Chiaki Iwamura, Veronique Lefebvre, Toshinori Nakayama
Nature Immunology, 13, 778-786 (2012)

要 約

 抑制性サイトカインであるTGFβはT細胞の活性化や増殖を直接的に阻害するほか,制御性T細胞を誘導することで免疫反応を抑制している.また,TGFβはCD4陽性ヘルパーT細胞サブセットのなかでも2型ヘルパーT細胞の分化や機能を強く阻害することが報告されている.しかしながら,TGFβによる2型ヘルパーT細胞に選択的な作用の分子機構は完全には解明されていない.そこで,TGFβにより発現が制御され2型ヘルパーT細胞の分化や機能を抑制するような分子を探索したところ,Sry型の転写因子であるSox4を見い出した.in vitroにおいてSox4をノックダウンすることによりTGFβによる2型ヘルパーT細胞の分化の抑制が部分的に解除されたことから,Sox4がこの分化抑制に関与していることがはじめて明らかになった.つづいて,T細胞に特異的なSox4トランスジェニックマウス,および,T細胞に特異的なSox4ノックアウトマウスの解析を行い,Sox4が2型ヘルパーT細胞の分化および機能を抑制していることをin vitroおよびin vivoの両方で確認した.また,2型ヘルパーT細胞の分化におけるマスター転写因子はGATA-3であるが,今回の研究から,Sox4はGATA-3に直接的に結合しその機能を阻害することにより2型ヘルパーT細胞の分化を抑制していることも新たに見い出した.これらは,慢性難治性喘息ほか気道炎症の制御および治療にむけ重要な意味をもつ発見であると考えられた.

はじめに

 アレルギー疾患は国民の3人に1人が罹患しているにもかかわらず,いまだに効率のよい予防法や根治療法は開発されていない.そのため,いったん発症すると慢性化することが多く,治療が長期にわたり,患者の肉体的,精神的,経済的な負担がきわめて大きいことから,現代医学が解決すべき大きな課題のひとつとなっている.アレルギー疾患の発症や病態には2型ヘルパーT細胞の過剰な活性化が深く関与している1-3).2型ヘルパーT細胞は,インターロイキン4,インターロイキン5,インターロイキン13といったサイトカインの分泌を介し,免疫グロブリンEの産生や,好酸球の遊走および組織への浸潤,気道過敏性の亢進を誘発することから,アレルギー疾患の根幹に位置する細胞であると考えられている.筆者らは,この2型ヘルパーT細胞の分化や機能を制御することによりアレルギー反応の抑制が可能となり,将来的には,難治性の慢性アレルギー疾患の根治療法の開発につながると考え研究を行った.

1.Sox4はT細胞受容体の刺激により抑制されTGFβにより誘導される

 抗原による刺激をうけていないヘルパーT細胞であるナイーブCD4陽性T細胞と2型ヘルパーT細胞とで発現の異なる遺伝子をDNAマイクロアレイにより解析し,Sry型の転写因子Sox4を見い出した.Sox4の発現はT細胞受容体への刺激をうけることで急激に低下した.また,エフェクターヘルパーT細胞のサブセットにおけるSox4の発現を検討したところ,誘導性制御性T細胞においてその発現はもっとも高く,ついで17型ヘルパーT細胞であり,2型ヘルパーT細胞における発現はもっとも低いことがわかった.誘導性制御性T細胞と17型ヘルパーT細胞はその分化にTGFβを必要とすることから,Sox4の発現誘導にはTGFβがかかわっていると考え検討を行ったところ,ヘルパーT細胞をTGFβにより処理することでSox4の発現が誘導されることを確認した.TGFβによるSox4の発現誘導は抑制性のSmadであるSmad7の導入により抑制された.さらに,TGFβで処理したヘルパーT細胞においてクロマチン免疫沈降法によりSox4遺伝子の転写開始点の上流にSmad2あるいはSmad3の結合が検出されたことから,TGFβによるSox4の発現誘導にはSmadの活性化が必要である可能性が示された.

2.Sox4はTGFβによる2型ヘルパーT細胞の分化の制御に関与する

 TGFβによる2型ヘルパーT細胞の分化の抑制におけるSox4の関与をノックダウンアッセイにより検討した.その結果,2型ヘルパーT細胞により産生されるサイトカインのTGFβによる産生抑制は,Sox4のノックダウンにより部分的に解除された.Sox4ノックダウンの影響は,2型ヘルパーT細胞により産生されるサイトカインのなかでも,インターロイキン5に対してもっとも強かった.
 2型ヘルパーT細胞によるサイトカインの産生および2型ヘルパーT細胞の分化におけるSox4の役割を詳細に検討するため,活性化したヘルパーT細胞へレトロウイルスベクターによりSox4を導入したところ,2型ヘルパーT細胞の分化およびサイトカインの産生はほぼ完全に抑制された.また,2型ヘルパーT細胞の分化にともない誘導されるサイトカインの遺伝子座における活性化型のヒストン修飾,ヒストンH3の9番目のリジン残基のアセチル化,14番目のリジン残基のアセチル化,4番目のリジン残基のトリメチル化の誘導も抑制された.さらに,T細胞に特異的なSox4トランスジェニックマウスを作製し行った解析においても同様な結果が得られた.一方,ヘルパーT細胞のほかのサブセットの分化に対しSox4の過剰発現はほとんど影響をあたえなかった.以上の結果は,TGFβによる2型ヘルパーT細胞の選択的な抑制にSox4が関与している可能性を強く示唆するものであった.

3.Sox4はGATA-3と結合し2つの経路を介してその機能を阻害する

 Sox4による2型ヘルパーT細胞の分化の抑制における分子機構を解析した.Sox4は2型ヘルパーT細胞のマスター転写因子であるGATA-3の発現には影響をあたえなかったことから,Sox4がGATA-3の機能を抑制している可能性を考え,まず,Sox4とGATA-3との結合について検討した.その結果,Sox4とGATA-3とは直接的に結合すること,その結合にはSox4のHMGボックスとGATA-3のジンクフィンガーとが必要であることがわかった.また,1型ヘルパーT細胞にGATA-3遺伝子を導入すると,2型ヘルパーT細胞により産生されるサイトカインの遺伝子座においてクロマチンリモデリングが誘導され2型ヘルパーT細胞への分化が成立したが,そこにSox4を共発現させることでGATA-3による2型ヘルパーT細胞の分化は抑制された.これらのことは,Sox4がGATA-3と結合することによりGATA-3結合部位への結合能を低下させることが,Sox4の2型ヘルパーT細胞の分化抑制における分子機構の一部であることを示していた.さらに,2型ヘルパーT細胞により産生されるサイトカインのうち,インターロイキン5の遺伝子プロモーター領域にはGATA-3結合部位とSox4結合部位とがオーバーラップしたかたちで存在し,GATA-3とSox4はこの領域において競合的に結合すること,それによりGATA-3によるインターロイキン5遺伝子の転写の活性化は低下することもわかった.これらの実験結果から,Sox4は2つの異なる分子機構を介してGATA-3により誘導される2型ヘルパーT細胞の分化,および,インターロイキン5の産生を抑制していることが明らかになった(図1).

figure1

4.アレルギー性気道炎症モデルマウスの病態はT細胞に特異的なSox4トランスジェニックマウスでは改善しT細胞に特異的なSox4ノックアウトマウスでは増悪する

 Sox4の発現量の制御を介したアレルギー性炎症の病態の制御の可能性についてアレルギー性気道炎症モデルマウスを用いて検討した.T細胞に特異的なSox4トランスジェニックマウスでは,炎症にともない誘導される肺組織および気道肺胞の洗浄液への好酸球の浸潤が著しく低下した.また,浸潤した細胞におけるインターロイキン4,インターロイキン5,インターロイキン13の発現量も著しく低下していた.さらに,細気管支における粘液の産生の亢進,および,気道過敏性の亢進も低下していた.これに対し,T細胞に特異的なSox4ノックアウトマウスでは,逆に,好酸球の浸潤,粘液の産生,気道過敏性のすべてが亢進していることが確認された.これらの結果から,in vivoにおいてSox4がアレルギー性炎症の病態を制御していることがはじめて確認された.

おわりに

 今回の結果から,TGFβからのシグナルとT細胞受容体からのシグナルのバランスによりSox4の発現量が決定され,2型ヘルパーT細胞の分化が制御されている可能性が考えられた(図2).そして,慢性的なアレルゲンの曝露によりヘルパーT細胞が持続的な刺激をうけてSox4の発現が長期間にわたり低下することがアレルギーの慢性化をひき起こす原因となる,といった新たな炎症の慢性化の仮説も提唱することができた.また,Sox4の作用を促進した場合でも2型ヘルパーT細胞の機能のみが阻害され,そのほかのヘルパーT細胞のサブセットの機能にはいまのところ顕著な障害は見い出されていない.これらのことから,今後,Sox4やGATA-3の人為的な発現の制御を可能にする技術を開発することが,新規のアレルギー予防法だけでなく,発症ののち時間が経過し慢性化してしまった難治性アレルギー疾患の治療法の開発にもつながると考えられた.

figure2

文 献

  1. Ansel, K. M., Djuretic, I., Tanasa, B. et al.: Regulation of Th2 differentiation and Il4 locus accessibility. Annu. Rev. Immunol., 24, 607-656 (2006)[PubMed]
  2. Nakayama, T. & Yamashita, M.: Initiation and maintenance of Th2 cell identity. Curr. Opin. Immunol., 20, 265-271 (2008)[PubMed]
  3. Zhu, J., Yamane, H. & Paul, W. E.: Differentiation of effector CD4 T cell populations. Annu. Rev. Immunol., 28, 445-489 (2010)[PubMed]

生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.

著者プロフィール

桑原 誠(Makoto Kuwahara)
略歴:2009年 千葉大学大学院医学研究院博士課程 修了,同年 千葉大学G-COE特任研究員を経て,2010年よりかずさDNA研究所 特別研究員.
研究テーマ:転写調節因子によるCD4陽性T細胞の老化制御.
抱負:CD4陽性T細胞の免疫老化の分子機構を明らかにしたい.

山下 政克(Masakatsu Yamashita)
略歴:かずさDNA研究所 室長.
研究テーマ:T細胞の機能分化のエピジェネティクス.
抱負:免疫系のエピジェネティクス制御の意義について,T細胞をモデルに明らかにしていきたい.

中山 俊憲(Toshinori Nakayama)
千葉大学大学院医学研究院 教授.
研究室URL:http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/meneki/

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