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大脳新皮質における神経新生プログラムの哺乳類と鳥類との進化的な保存性

2012年5月9日

鈴木郁夫・平田たつみ
(国立遺伝学研究所 脳機能研究部門)
email:鈴木郁夫平田たつみ
DOI: 10.7875/first.author.2012.052

The temporal sequence of the mammalian neocortical neurogenetic program drives mediolateral pattern in the chick pallium.
Ikuo K. Suzuki, Takahiko Kawasaki, Takashi Gojobori, Tatsumi Hirata
Developmental Cell, 22, 863-870 (2012)

要 約

 哺乳類の大脳新皮質では膨大かつ多様なニューロンが接線方向に整然と並び,特徴的な層構造をとっている.この層構造は哺乳類のすべての種において共通しているが,鳥類や爬虫類などの哺乳類以外の羊膜類にはみられない.そのため,層構造をもつ大脳新皮質は哺乳類の誕生の直後に現われた進化的に新しい脳領域であると考えられている.しかし,大脳新皮質の層構造が実際にどのような進化の過程をへて誕生したのかはほとんど明らかになっておらず,長年にわたり議論されてきたにもかかわらずいまだ決着はついていない.この研究では,哺乳類の大脳新皮質の上層と下層において特異的なニューロンが,ニワトリの終脳にも存在することを明らかにした.さらに,これらのニューロンのサブタイプは哺乳類とニワトリのどちらにおいても非常によく似た過程をへて神経前駆細胞から産生されることがわかった.これらの事実は,哺乳類と鳥類との共通祖先の段階からすでに大脳新皮質にこれらのニューロンのサブタイプが存在していたことを示唆した.一方で,ニワトリの終脳において下層タイプと上層タイプのそれぞれのニューロンは哺乳類のような層状の分布は示さず,内側と外側の部位に離れて存在していた.そして,この内側と外側とに離れたニューロンのサブタイプの分布は,哺乳類とは異なる神経新生の空間的な制御により形成されていた.つまり,大脳新皮質におけるニューロンのレパートリーを産み出すための分子機構は哺乳類と鳥類との分岐以前の神経前駆細胞に存在していたものの,それぞれの系統が特殊化する過程において神経新生の空間的な制御様式を独自に進化させたことにより,それぞれの系統に固有の脳におけるニューロンの配置パターンが生まれたものと考えられた.

はじめに

 われわれの認知機能の多くは大脳新皮質の神経回路に依存している.哺乳類の大脳新皮質は終脳の背側部(外套)に存在し,哺乳類以外の動物にはみられない特有の層構造を発達させている.大脳新皮質ではそれぞれの層ごとに性質のよく似たニューロンが集まっていて,たとえば,下層には皮質外へと投射する出力を担うニューロンが多く,上層には皮質内で局所回路を形成するニューロンが多い1,2).こういった層特異的なニューロンの性質は神経前駆細胞から産生されるタイミングにより決定されることがわかっており,早期に分化するニューロンほどより下層タイプの性質をもち,より後期に分化するニューロンほど上層タイプの性質をもつ2,3)
 大脳新皮質は比較的最近になり誕生した哺乳類において爆発的な発達をとげたため,“新皮質”という名があたえられている.しかし,大脳新皮質に相同な脳領域は鳥類や爬虫類といった哺乳類以外の生物においても確認されていて,大脳新皮質そのものが進化的に新しい脳領域であるわけではない4).大脳新皮質と相同な領域を含む哺乳類以外の生物の外套では哺乳類のような層構造は観察されず,哺乳類の大脳新皮質のそれぞれの層に特異的なサブタイプのニューロンが存在しているのかどうかも定かでなかった5-7)

1.ニワトリの終脳における大脳新皮質の層特異的なニューロンの分布パターン

 哺乳類の大脳新皮質におけるニューロンのサブタイプが哺乳類以外の生物においても存在するかどうかはわかっていなかった.そこで,発生期の哺乳類の大脳新皮質において特定の層で特異的に発現し層特異的なニューロンの運命決定に寄与している転写因子の遺伝子を中心に大脳新皮質の層特異的なマーカー遺伝子2) を選び,ニワトリの終脳における発現パターンを解析した.その結果,下層(第5層)に特異的なマーカー遺伝子は内側の領域で,上層(おもに第2/3層)に特異的なマーカー遺伝子は外側の領域で発現していた(図1).この結果から,ニワトリの終脳においても哺乳類の大脳新皮質におけるニューロンのレパートリーが保存されていることが明らかになった.しかし,これらのニューロンのサブタイプの脳における空間配置パターンは哺乳類の層構造とは異なり,下層タイプと上層タイプのニューロンはそれぞれ内側と外側とに離れて分布していた.

figure1

2.ニワトリの終脳における大脳新皮質の層特異的なニューロンの産生パターン

 哺乳類の大脳新皮質の形成においては,神経前駆細胞から産生されたニューロンのサブタイプは分化したタイミングにより最終的に位置する層が決定される.また,大脳新皮質の領域のどの部位であっても,同じように下層から上層へと順に神経新生が進む.ニワトリの外套において,これらのニューロンのサブタイプがどのように産生されているかを調べた.まず,発生の初期においてさまざまな領域の神経前駆細胞を蛍光標識し,下層タイプおよび上層タイプのニューロンの産生部位と移動経路を解析した.すると,下層のマーカーを発現するニューロンは内側の神経前駆細胞に由来し,上層のマーカーを発現するニューロンは外側の神経前駆細胞に由来することが明らかになった.また,発生のさまざまなタイミングでチミジンの類似物質であるBrdUを一過的に取り込ませ,下層あるいは上層のマーカーを発現するニューロンの分化のタイミングを調べた.その結果,下層のマーカーを発現するニューロンの大多数は発生から5日前後に分化し,上層のマーカーを発現するニューロンの多くは発生から7日前後に分化していることがわかった.これらのことから,ニワトリの終脳においては,下層タイプのニューロンは内側の神経前駆細胞からより早い発生ステージに産生され,上層タイプのニューロンは外側の神経前駆細胞からより遅いステージに産生されることがわかった.

3.ニワトリの外套での培養条件におけるニューロンの産生パターン

 哺乳類の大脳新皮質においてはどの領域の神経前駆細胞も下層から上層まですべての層のニューロンを産生する.それに対して,ニワトリの外套では内側と外側の神経前駆細胞はそれぞれ下層タイプと上層タイプのどちらかのニューロンを産生する.そこで,ニワトリにおける神経新生の領域特異性を産み出す分子機構について,つぎの2つの仮説を考えた.1)内側と外側のそれぞれの領域の神経前駆細胞それ自体のニューロン産生能力が異なるため,実際に産生されるニューロンのサブタイプが領域ごとに異なる.2)神経前駆細胞それ自体は領域によらず均質であるが,神経前駆細胞の周囲の環境からの制御様式が内側と外側とで異なるため,結果として産生されるニューロンのサブタイプは領域ごとに異なる.
 この2つの仮説のうちどちらがより確からしいかを検証するため,ニワトリの外套の内側と外側のそれぞれの領域から神経前駆細胞を取り出し,胚での環境因子を除外した培養条件におけるニューロンの産生能力を調べた.このとき,神経前駆細胞を低密度で培養することで8),単一の神経前駆細胞に由来するクローンを得ることができ,個々のクローンにおいて下層タイプあるいは上層タイプのニューロンが存在するかどうかを解析できる.解析の結果,ニワトリの外套の内側と外側のどちらの領域から単離した場合でも,神経前駆細胞は下層タイプと上層タイプの両方のニューロンを産み出すことがわかった.さらに,培養条件においても個々の神経前駆細胞は下層タイプのニューロンをさきに生み出し,そのあとで上層タイプのニューロンを産み出すことがわかった.したがって,培養条件においてはニワトリの外套の神経前駆細胞に内側と外側の由来による違いは存在しない.どちらに由来する神経前駆細胞であっても,哺乳類の大脳新皮質の神経前駆細胞と同様に,下層から上層の順でつぎつぎに複数のサブタイプのニューロンを産生する.よって,2)の仮説,すなわち,ニワトリの外套において内側と外側とで異なるサブタイプのニューロンが産生される理由は,神経前駆細胞をとりまく環境からの制御様式の異なることが原因であるという仮説が支持された.

4.ニワトリの外套における神経新生の時空間的な制御パターン

 神経前駆細胞のニューロン産生能力それ自体がどの領域でも同じであるなら,内側と外側のそれぞれの領域で異なるサブタイプのニューロンが生まれるのはなぜだろうか? その答えは,神経前駆細胞の分裂と分化の時空間的なダイナミクスの解析から得られた.おもに下層タイプのニューロンが産生される神経新生の早期においては,内側から外側までどの領域でも比較的均質に神経新生が起こっていた.ところが,上層タイプのニューロンが産生される神経新生の後期においては,内側の領域での神経新生はきわめて低いレベルに抑制されていた一方で,外側の領域では神経前駆細胞が爆発的に分裂しニューロンが産生されていた.このため,神経新生の後期に産生される上層タイプのニューロンが外側の領域に集中すると考えられた.内側と外側のどちらの領域に由来する神経前駆細胞も基本的に同等なニューロン産生能力をもつことが示された培養実験の結果とあわせて考えると,内側と外側とでは神経新生に対する環境からの制御様式が異なっているため,最終的に産み出されるニューロンのサブタイプが異なるのだと考えられた(図2).

figure2

おわりに

 哺乳類の大脳新皮質とニワトリにおける相同領域は構造的に大きく異なっているにもかかわらず,共通したニューロンのレパートリーが存在することを発見した.さらに,どちらの生物においてもこれらのニューロンは単一の神経前駆細胞より下層タイプから上層タイプへつねに決まった順で産生されていた.これまで,哺乳類の大脳新皮質の層特異的なニューロンのサブタイプは,層構造それ自体の進化的な起源と同じタイミングで獲得されたと考えられてきた.しかし,この研究の結果から,ニューロンのレパートリーの起源は層構造それ自体の進化的な起源よりも古く,少なくとも,哺乳類と鳥類との共通祖先より古い段階から存在していたことが示唆された.つまり,哺乳類と鳥類は共通祖先から共通したニューロン産生能力をもつ神経前駆細胞を受け継ぎ,それぞれの系統進化の過程で神経新生の時空間的な制御パターンに独自の修正をくわえることによりまったく異なる細胞分布パターンを獲得したのだろうと考えられた.
 この研究では,哺乳類と鳥類という比較的遠く離れた系統間の比較から,ニューロンのサブタイプの産生機構が驚くほどに保存されているという結果を得た.しかし,2つの系統のあいだで大きく異なっている脳におけるニューロンの分布パターンがどのような進化的な変遷をへて誕生したのかを理解するためには,さらにいくつかの別の系統についての知見が不可欠である.哺乳類と鳥類との外群にあたる両生類や魚類,さらには,原始的な羊膜類の形質をいまだ保持していると考えられるカメやトカゲなどの爬虫類についての研究が興味深い知見をもたらすだろう.

文 献

  1. Leone, D. P., Srinivasan, K., Chen, B. et al.: The determination of projection neuron identity in the developing cerebral cortex. Curr. Opin. Neurobiol., 18, 28-35 (2008)[PubMed]
  2. Molyneaux, B. J., Arlotta, P., Menezes, J. R. et al.: Neuronal subtype specification in the cerebral cortex. Nat. Rev. Neurosci., 8, 427-437 (2007)[PubMed]
  3. McConnell, S. K.: The generation of neuronal diversity in the central nervous system. Annu. Rev. Neurosci., 14, 269-300 (1991)[PubMed]
  4. Puelles, L., Kuwana, E., Puelles, E. et al.: Pallial and subpallial derivatives in the embryonic chick and mouse telencephalon, traced by the expression of the genes Dlx-2, Emx-1, Nkx-2.1, Pax-6, and Tbr-1. J. Comp. Neurol., 424, 409-438 (2000)[PubMed]
  5. Jarvis, E. D., Gunturkun, O., Bruce, L. et al.: Avian brains and a new understanding of vertebrate brain evolution. Nat. Rev. Neurosci., 6, 151-159 (2005)[PubMed]
  6. Medina, L. & Reiner, A.: Do birds possess homologues of mammalian primary visual, somatosensory and motor cortices? Trends Neurosci., 23, 1-12 (2000)[PubMed]
  7. Northcutt, R. G. & Kaas, J. H.: The emergence and evolution of mammalian neocortex. Trends Neurosci., 18, 373-379 (1995)[PubMed]
  8. Shen, Q., Wang, Y., Dimos, J. T. et al.: The timing of cortical neurogenesis is encoded within lineages of individual progenitor cells. Nat. Neurosci., 9, 743-751 (2006)[PubMed]

生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.

著者プロフィール

鈴木 郁夫(Ikuo K. Suzuki)
略歴:2010年 総合研究大学大学院生命科学研究科 修了,同年 国立遺伝学研究所 博士研究員を経て,2012年よりベルギーLibre de Bruxelles大学 博士研究員.
研究テーマ:ヒトの大脳皮質に特有の発生および進化の分子機構の理解.

平田 たつみ(Tatsumi Hirata)
国立遺伝学研究所 准教授.
研究室URL:http://www.nig.ac.jp/labs/Brain/new/j/hirata_lab_j/toppu.html

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