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First author's

マウスにおいて短期間かつ効率的に心筋細胞を分化させ心臓の機能を改善させる

2018年1月15日

宮本和享・家田真樹
(慶應義塾大学医学部 内科学教室循環器内科)
email:宮本和享家田真樹
DOI: 10.7875/first.author.2018.006

Direct in vivo reprogramming with Sendai virus vectors improves cardiac function after myocardial infarction.
Kazutaka Miyamoto, Mizuha Akiyama, Fumiya Tamura, Mari Isomi, Hiroyuki Yamakawa, Taketaro Sadahiro, Naoto Muraoka, Hidenori Kojima, Sho Haginiwa, Shota Kurotsu, Hidenori Tani, Li Wang, Li Qian, Makoto Inoue, Yoshinori Ide, Junko Kurokawa, Tsunehisa Yamamoto, Tomohisa Seki, Ryo Aeba, Hiroyuki Yamagishi, Keiichi Fukuda, Masaki Ieda
Cell Stem Cell, 22, 91-103.e5 (2018)

要 約

 これまでに,筆者らは,線維芽細胞から直接的に心筋細胞を作製する方法を確立していたが,ベクターとしてレトロウイルスを用いており,宿主のゲノムが損傷をうける可能性や,分化の効率が低いなどの課題があった.この研究においては,新たにベクターとして宿主の遺伝子を改変しないセンダイウイルスを用いる方法を開発した.レトロウイルスベクターを用いる方法と比較して,心筋細胞はより短期間で作製され,分化の効率は約100倍も改善された.さらに,ヒトの心臓に由来する線維芽細胞からも約15%の効率で心筋細胞が作製された.また,心筋梗塞のマウスモデルにセンダイウイルスベクターを直接的に導入することにより,生体において心筋細胞が分化し,さらに,1カ月後には心臓の収縮の機能が改善し,心筋梗塞ののちに線維化した組織は約半分に縮小した.以上より,宿主のゲノムを損傷することなく,短期間かつ効率的に,心筋細胞を心臓において直接的に分化させる方法が確立された.

はじめに

 心筋細胞は終末分化細胞であり再生能をもたないため,障害をうけると心臓において線維芽細胞の増殖および瘢痕化が起こり心不全にいたる.これまでに,筆者らは,線維芽細胞に対し心筋細胞に特異的な3つの転写因子を遺伝子導入することにより,iPS細胞を経由せず直接的に心筋細胞を作製した1)新着論文レビュー でも掲載).そののち,筆者らを含むいくつかの研究グループから,よりよい培養条件あるいは導入する遺伝子を追加することにより,マウスおよびヒトの細胞において分化の効率の改善が示された2-4).また,心筋梗塞のマウスモデルにおいて梗塞部に直接的に遺伝子を導入することにより,生体においても心筋細胞が分化することが報告された5-7).以上より,in vitroおよびin vivoにおいて心筋細胞を直接的に分化させる方法が多く報告され,新しい治療法のひとつとして期待されている.
 しかし,ベクターとして宿主の遺伝子が改変されるリスクをもつレトロウイルスあるいはレンチウイルスが使用されており,宿主のゲノムが損傷をうける可能性があった.また,分化の効率は低く,作製に時間がかかるという課題があり,今後の臨床への応用において克服すべき問題点と考えられていた.この研究において,筆者らは,核にある染色体に外来の遺伝子が組み込まれることのないセンダイウイルスベクターに着目した.センダイウイルスベクターは哺乳類において,分裂細胞あるいは非分裂細胞をとわず多くの種類の細胞あるいは組織に遺伝子を導入することが可能であり,外来の遺伝子の高い発現能をもつ.また,センダイウイルスのゲノムはRNAであり,原理上,核にある染色体が改変されるリスクはなく,挿入変異や染色体の構造変化の危険性もないなど,機能性および安全性の両面で有利な特徴をもつ.これまでに,センダイウイルスベクターを用いて山中4因子をヒトの細胞に導入してiPS細胞が作製されたことが報告されている8,9)

1.センダイウイルスベクターを用いたマウスの胎仔線維芽細胞からの心筋細胞の直接的な作製

 心筋細胞に特異的な転写因子であるGata4,Mef2c,Tbx5を同時に発現するポリシストロニックなセンダイウイルスベクターを開発した.このベクターをマウスの胎仔線維芽細胞に導入したところ,レトロウイルスベクターを用いた従来の方法と比較して,心筋細胞の分化の効率は顕著に改善し,短期間に明瞭なサルコメア構造をもつ成熟した心筋細胞が分化されたことが蛍光セルソーターおよび免疫染色法により確認された.作製された心筋細胞は心筋細胞に関連するさまざまな遺伝子を発現しており,その発現量もレトロウイルスベクターを用いた場合と比較し有意に高いことが定量的PCR法により確認された.また,このセンダイウイルスベクターを用いた方法では,細胞のゲノムにベクターのもつ遺伝子は挿入されず,ゲノムの損傷のないことも確認された.

2.センダイウイルスベクターを用いて作製された心筋細胞の生理機能の解析

 作製された心筋細胞の機能面における特性を評価するため,拍動する心筋細胞の計数および心筋細胞の活動電位の測定を行った.レトロウイルスベクターを用いた場合,拍動する心筋細胞の出現には約1カ月を要し,その効率も0.1%と低値であった.一方,センダイウイルスベクターを用いた場合,導入ののち10日目には拍動する心筋細胞が確認され,1カ月後には10%の拍動する心筋細胞が認められた.作製された心筋細胞の生理機能についてより詳細に検討するため,Ca2+イメージングおよびパッチクランプ法を行った.Rhod-3を用いたCa2+イメージングにおいては,センダイウイルスベクターを用いて作製された心筋細胞はCa2+の濃度の自律的な変化が認められ,また,各種の心筋作動薬に対し心筋細胞に特徴的な応答を示した.また,パッチクランプ法により,作製された心筋細胞は心房筋細胞,心室筋細胞,洞結節細胞にそれぞれ特徴的な活動電位を示すことが確認された.以上より,センダイウイルスベクターを用いることにより,機能的にも成熟した心筋細胞を分化させることが可能であることが示された.

3.センダイウイルスベクターにより分化の効率が改善される機序

 センダイウイルスベクターを用いることにより心筋細胞の分化の効率が改善される機序について検討した.レトロウイルスベクターあるいはセンダイウイルスベクターを用いてマウスの線維芽細胞に同じ量のGFPを導入したところ,ともにほぼ100%の感染効率を示した.また,Gata4,Mef2c,Tbx5を導入したのちに免疫染色を施行したところ,それらの発現についてレトロウイルスベクターあるいはセンダイウイルスベクターにめだった優劣は認められず,ともに高い感染効率を示した.導入された遺伝子のタンパク質レベルでの発現量をウェスタンブロット法により確認したところ,センダイウイルスベクターを用いた場合は有意に高値であり,また,内因性の遺伝子の発現が効率的に惹起されることが確認された.
 効率の改善の一因として,センダイウイルスベクターのウイルス粒子それ自体が心筋細胞の分化に対し影響するのかどうか検討した.レトロウイルスベクターによりGata4,Mef2c,Tbx5を導入するのと同時にセンダイウイルスベクターによりGFPを導入し,分化の効率の変化について検討した.その結果,センダイウイルスベクターの導入により分化の効率の改善や拍動する心筋細胞の増加はみられず,センダイウイルスベクターのウイルス粒子の影響については否定的であった.また,EdUアッセイにより,センダイウイルスは心筋細胞の増殖を惹起するわけではないことも確認された.以上より,センダイウイルスベクターによるGata4,Mef2c,Tbx5の高発現により心筋細胞の分化の効率が改善されることが示唆された.

4.成体のマウスおよびヒトの線維芽細胞からの直接的な心筋細胞の作製

 マウスの皮膚に由来する線維芽細胞からの直接的な心筋細胞の作製について検討した.これまでの報告において,マウスの皮膚に由来する線維芽細胞においてはGata4,Mef2c,Tbx5にくわえHand2を導入することにより心筋細胞が効率的に作製された4,7).これをふまえ,この4つの転写因子をセンダイウイルスベクターを用いて導入したところ,マウスの胎仔線維芽細胞と同様に短期間かつ効率的に心筋細胞が分化し,作製された心筋細胞は機能面においても成熟した心筋細胞と類似した性質をもっていた.また,成体のマウスの皮膚に由来する線維芽細胞からも同様に心筋細胞が効率的に作製された.
 ヒトの心臓に由来する線維芽細胞からの直接的な心筋細胞の作製を試みた.これまでに筆者らにより,レトロウイルスベクターあるいはレンチウイルスベクターを用いた場合,Gata4,Mef2c,Tbx5にくわえMesp1およびMyocd,さらに,マイクロRNAであるmiR-133を導入することによりヒトの心臓に由来する線維芽細胞から心筋細胞が作製された2,3).そこで,センダイウイルスベクターを用いてこの5つの転写因子およびmiR-133を導入したところ,心筋細胞の分化の効率は約15%であった.また,作製された心筋細胞はラットの心筋細胞と共培養することにより拍動をはじめ,パッチクランプ法により心房筋細胞,心室筋細胞,洞結節細胞にそれぞれ特徴的な活動電位を示し,生理機能面においても心筋細胞の特性をもつことが確認された.以上より,センダイウイルスベクターを用いて,ヒトの心臓に由来する線維芽細胞からも短期間かつ効率的に心筋細胞を分化させることが可能であることが示された.

5.マウスの生体における心筋細胞の直接的な分化および心臓の再生

 マウスの生体における心筋細胞の直接的な分化について検討した.in vivoにおけるセンダイウイルスベクターによる遺伝子の発現部位を調べるため,心筋梗塞のマウスモデルにセンダイウイルスベクターを用いてGFPを直接的に導入したところ,レトロウイルスを用いた従来の方法と同様に5),梗塞部の線維芽細胞に選択的にGFPが発現した.そこで,線維芽細胞の細胞系譜の追跡が可能なマウスを用いて心筋梗塞モデルを作製し,レトロウイルスベクターあるいはセンダイウイルスベクターを用いてGata4,Mef2c,Tbx5を心臓に直接的に導入した.導入から1週間後の免疫染色において,レトロウイルスベクターを用いた場合には心筋細胞の分化の効率は約0.5%と低値であり分化した心筋細胞も未熟だったが,センダイウイルスベクターを用いた場合には心筋細胞の分化の効率は約1.5%に上昇し成熟した心筋細胞が確認された.
 生体におけるセンダイウイルスベクターの長期的な効果について,免疫不全マウスであるNOD-SCIDマウスを用いて検討した5).NOD-SCIDマウスを用いて心筋梗塞モデルを作製し,Gata4,Mef2c,Tbx5およびGFPをレトロウイルスベクターあるいはセンダイウイルスベクターを用いて心臓に直接的に導入した.導入から1カ月後の免疫染色において,レトロウイルスベクターを用いた場合には心筋細胞の分化の効率は約1%と低値であったのに対し,センダイウイルスベクターを用いた場合には心筋細胞の分化の効率は約5%に上昇し,心筋細胞に特徴的なサルコメア構造が明瞭に認められた.また,ほかの臓器において心筋細胞は分化しないことが免疫染色により確認された.以上より,センダイウイルスベクターを用いることにより,生体においても従来のレトロウイルスベクターを用いた方法に比べ,心筋細胞の分化の効率が改善することが確認された.
 生体における心筋細胞の直接的な分化による治療について,心臓エコー法を用いて心臓の機能を評価した.センダイウイルスベクターを用いた場合には,無治療の場合あるいはレトロウイルスベクターを用いた場合と比較して,1カ月後には心臓の収縮の機能が改善した.また,心筋梗塞ののちに線維化した組織が,無治療の場合の約半分まで縮小することがアザン染色により確認された.その機序として,生体における心筋細胞の分化により,梗塞部において1型コラーゲンが減少することが見い出された.以上より,センダイウイルスベクターを用いることにより生体において心筋細胞を直接的に分化させ,さらに,心筋梗塞ののちの心臓の機能の改善が確認された.

おわりに

 これまでのレトロウイルスベクターあるいはレンチウイルスベクターを用いた方法では心筋細胞の分化の効率が低く,遺伝子の挿入による変異のリスクがあり,臨床への応用にはハードルがあった.この研究においては,センダイウイルスベクターを用いることにより,マウスおよびヒトの線維芽細胞から短期間かつ効率的に心筋細胞を直接的に作製することに成功した(図1).また,マウスの生体においても心筋細胞を直接的に分化させ,心筋梗塞ののちの心臓の機能の改善および線維化の縮小が確認された.この研究の成果は,細胞の移植を必要としない,新しい心臓の再生医療の実現を前進させる大きな一歩であると考えている.

figure1

文 献

  1. Ieda, M., Fu, J. D., Delgado-Olguin, P. et al.: Direct reprogramming of fibroblasts into functional cardiomyocytes by defined factors. Cell, 142, 375-386 (2010)[PubMed] [新着論文レビュー]
  2. Wada, R., Muraoka, N., Inagawa, K. et al.: Induction of human cardiomyocyte-like cells from fibroblasts by defined factors. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 12667-12672 (2013)[PubMed]
  3. Muraoka, N., Yamakawa, H., Miyamoto, K. et al.: MiR-133 promotes cardiac reprogramming by directly repressing Snai1 and silencing fibroblast signatures. EMBO J., 33, 1565-1581 (2014)[PubMed]
  4. Yamakawa, H., Muraoka, N., Miyamoto, K. et al.: Fibroblast growth factors and vascular endothelial growth factor promote cardiac reprogramming under defined conditions. Stem Cell Rep., 5, 1128-1142 (2015)[PubMed]
  5. Inagawa, K., Miyamoto, K., Yamakawa, H. et al.: Induction of cardiomyocyte-like cells in infarct hearts by gene transfer of Gata4, Mef2c, and Tbx5. Circ. Res., 111, 1147-1156 (2012)[PubMed]
  6. Qian, L., Huang, Y., Spencer, C. I. et al.: In vivo reprogramming of murine cardiac fibroblasts into induced cardiomyocytes. Nature, 485, 593-598 (2012)[PubMed]
  7. Song, K., Nam, Y. J., Luo, X. et al.: Heart repair by reprogramming non-myocytes with cardiac transcription factors. Nature, 485, 599-604 (2012)[PubMed]
  8. Fusaki, N., Ban, H., Nishiyama, A. et al.: Efficient induction of transgene-free human pluripotent stem cells using a vector based on Sendai virus, an RNA virus that does not integrate into the host genome. Proc. Jpn. Acad. Ser. B Phys. Biol. Sci., 85, 348-362 (2009)[PubMed]
  9. Seki, T., Yuasa, S., Oda, M. et al.: Generation of induced pluripotent stem cells from human terminally differentiated circulating T cells. Cell Stem Cell, 7, 11-14 (2010)[PubMed]

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著者プロフィール

宮本 和享(Kazutaka Miyamoto)
略歴:2015年 慶應義塾大学医学部大学院医学研究科 修了,慶應義塾大学医学部 共同研究員.
研究テーマ:臨床への応用にむけた安全な心筋細胞を分化させる方法の確立.
抱負:再生医療の実現により心臓病で苦しむ患者さんを助けたい.

家田 真樹(Masaki Ieda)
慶應義塾大学医学部 専任講師.

© 2018 宮本和享・家田真樹 Licensed under CC 表示 2.1 日本


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