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PARLはSmacの切断を介してアポトーシスを制御する

2017年4月4日

細田將太郎・Thomas Langer
(ドイツCologne大学Institute for Genetics)
email:細田將太郎
DOI: 10.7875/first.author.2017.031

PARL mediates Smac proteolytic maturation in mitochondria to promote apoptosis.
Shotaro Saita, Hendrik Nolte, Kai Uwe Fiedler, Hamid Kashkar, A. Saskia Venne, René P. Zahedi, Marcus Krüger, Thomas Langer
Nature Cell Biology, 19, 318-328 (2017)

要 約

 ミトコンドリアにはプロテアソームやリソソームといった細胞質に存在するようなタンパク質分解系は存在しない.そのため,ミトコンドリアにおけるタンパク質分解系において,プロテアーゼは重要な役割を担う.しかしながら,プロテアーゼがミトコンドリアにおいて,何を,いつ,どのように制御するかについてはあまり明らかにされていない.この研究においては,ミトコンドリアに局在するプロテアーゼのひとつPARLに着目し,大規模なプロテオミクス解析によりその基質を網羅的に探索した.その結果,新規の基質のひとつとしてアポトーシスタンパク質であるSmacが同定され,PARLはSmacを切断して活性化しアポトーシスを正に制御することが明らかにされた.さらには,ミトコンドリアの制御するアポトーシスの経路としてSmacのかかわる経路とシトクロムcのかかわる経路の2つが知られていたが,この2つは互いに独立した経路であることも明らかにされた.

はじめに

 ミトコンドリアはαプロテオバクテリアの共生を起源とする二重膜をもつオルガネラで,呼吸鎖複合体による酸化的リン酸化により細胞の大部分のATPを合成するほか,アポトーシスの制御にもはたらく.ミトコンドリアがこれらの機能を正常に遂行するためその品質は厳重に制御されており,損傷の際にはその内容や程度に応じて対処される1).なかでも,プロテアーゼによる制御はもっとも基礎的で損傷の軽い場合に起こると考えられている.たとえば,損傷あるいはミスフォールドしたタンパク質がミトコンドリアに蓄積した場合,プロテアーゼがそれらを切断し分解することによりミトコンドリアにおけるタンパク質の恒常性は維持される.ミトコンドリアにおけるプロテアーゼの異常はミトコンドリアの機能に大きな影響をおよぼし,がん,パーキンソン病,神経変性疾患といったヒトの疾患との関連性も報告されている2)
 ミトコンドリアには少なくとも25個のプロテアーゼが存在し2),それらは協調して機能すると考えられている.しかしながら,おのおののプロテアーゼがミトコンドリアにおいてどの基質を切断し,どのような機能を制御するのかについては明らかにされていない点が多い.この研究においては,ミトコンドリア内膜に局在するプロテアーゼPARLについて解析した.これまで,PARLの基質としてPINK1およびPGAM5が報告されている3).PARLは7回膜貫通ドメインをもつ膜タンパク質で,脂質二重膜の内部において基質を切断することにより,タンパク質の分解ではなく切断により基質を制御する3).したがって,PINK1やPGAM5はミトコンドリア内膜タンパク質であるが,PARLにより膜の内部で切断されたのち,可溶性のタンパク質としてミトコンドリア膜間腔に存在する.PARLのノックアウトマウスは誕生するものの矮小であり生後8~12週で死亡するが4),PINK1あるいはPGAM5によりこの表現型は説明できず,PARLはミトコンドリアにおいてほかの基質を切断することによりなんらかの機能を制御すると推測された.そこで,筆者らは,PARLの新規の基質の同定を目的に研究を進めた.

1.PARLの新規の基質の同定

 PARLの基質を同定するため,基質をトラップするPARL変異体を作製した.PARLはセリンプロテアーゼに分類され,Ser-His-Aspの3残基を活性中心にもつ.構造生物学的な解析からPARLの活性中心の位置が明らかにされており5),Ser277をAlaに置換することにより酵素活性は消失する.さらに,野生型のPARLは基質に結合すると切断し解離するが,Ser277をAlaに置換したPARL変異体は基質との結合が維持されつねに結合した状態になる.そこで,野生型のPARLあるいはSer277をAlaに置換したPARL変異体と結合するタンパク質を定量的なプロテオミクス解析法により網羅的に同定し,PARL変異体と多く結合するタンパク質を同定するというアプローチによりPARLの基質を探索した(図1a).

figure1

 Ser277をAlaに置換したPARL変異体をHEK細胞に発現させたのち,免疫沈降法により既知の基質であるPINK1あるいはPGAM5との結合を指標として結合の条件を検討したが,野生型のHEK細胞においては内在性に発現したPARLがほぼすべての基質を切断し,PARL変異体と基質との結合はごくわずかしか確認されなかった.さらに,siRNAにより内在性のPARLをノックダウンしてもわずかに残存したPARLが基質を切断してしまい,Ser277をAlaに置換したPARL変異体による基質のトラップはうまく機能しなかった.そこで,CRISPR-Cas9を利用したゲノム編集法によりPARLを欠損したHEK細胞を作製し,基質の候補となるタンパク質を蓄積させたのち,野生型のPARLあるいはSer277をAlaに置換したPARL変異体をそれぞれ発現させ,結合する基質を同定した.この方法により,PARL変異体と結合する基質の量は飛躍的に上昇した.しかしながら,このアプローチは培養細胞の生育に必須ではないプロテアーゼに対しては容易に適用できるが,生育に必須なプロテアーゼの解析はむずかしい.この解析により,PARLの基質の候補として既知の基質を含む45個のタンパク質が同定されたが,すべての基質について検証することはむずかしかった.そのため,別のアプローチを組み合わせることにした.
 もうひとつのアプローチとして,ChaFRADIC(charge-based fractional diagonal chromatography)法を利用した6).この方法により,タンパク質のN末端の配列を選択的に同定することができる.正常な細胞においてはPARLが基質を切断することによりひとつの基質から複数の新規のN末端が生じるが,PARLを欠損した細胞においては生じない.そこで,正常な細胞とPARL欠損細胞とでChaFRADIC法により同定されたN末端の差をとることによりPARLの基質を同定することを考えた(図1b).高純度のミトコンドリアを用いて細胞質に大量に存在するタンパク質の影響を排除することにより,この解析によりPARLの基質の候補として既知の基質を含む41個のタンパク質が同定された.
 2つのアプローチにおいて共通した新規のPARLの基質の候補として,5つのタンパク質が得られた.さらに,PARLの基質の条件として,1)PARL欠損細胞において非切断型が蓄積するあるいは切断型が減少する,2)この表現型は野生型PARLの発現により回復するがPARL変異体の発現により回復しない,3)Ser277をAlaに置換したPARL変異体とのみ結合する,4)予測された切断部位の前後のアミノ酸配列の疎水性が高く切断部位が膜貫通ドメインにある可能性がある,の4つを設定した.その結果,STARD7,CLPB,TTC19,Smacの4つのタンパク質がPARLの新規の基質であると確認された.これらのうち,脂質輸送タンパク質であるSTARD7はミトコンドリアにおける脂質の制御を,分子シャペロンであるCLPBはミトコンドリアにおいて凝集したタンパク質のアンフォールディングを,呼吸鎖複合体の制御タンパク質であるTTC19は呼吸鎖複合体IIIのアセンブリーを制御すると考えられており,現在,PARLとの関連について解析している.

2.Smacはミトコンドリアにおいて切断され活性化される

 2000年,3つの研究グループにより同時に,Smacはアポトーシスタンパク質であることが報告された7).SmacはN末端側にミトコンドリア移行配列をもち,ミトコンドリアへと輸送されたのち55番目と56番目のアミノ酸残基のあいだが切断され,新規のN末端をもつタンパク質としてミトコンドリア膜間腔に存在する.新規のN末端となった4つのアミノ酸残基は,IAP結合モチーフというアポトーシスの誘導のために重要なモチーフを形成する.正常な細胞においてはミトコンドリアの外膜は閉じた状態になっており,Smacはミトコンドリア膜間腔にとどまる.しかし,細胞がアポトーシスのシグナルをうけるとBAXあるいはBAKによりミトコンドリア外膜に穴があき,Smacは細胞質へと放出される.放出されたSmacはIAP結合モチーフを介して抗アポトーシスタンパク質であるXIAPと結合し,これを阻害してアポトーシスを誘導する.出芽酵母にSmacを強制発現させた実験において,ミトコンドリアにおけるSmacの切断はミトコンドリアのプロテアーゼであるIMMPがつかさどるという報告があったものの,IMMPのノックアウトマウスにおいてSmacの切断はまったく正常であったため,哺乳細胞において実際にどのプロテアーゼがSmacを切断するのかは不明であった.今回,PARLの基質としてSmacが同定されたことにより,この謎に終止符がうたれた.ただし,PARLを欠損した細胞においても切断型のSmacが20%ほど観察されており,SmacはPARLだけでなくほかのプロテアーゼによっても切断されると考えられた.

3.PARLはSmacの切断を介してアポトーシスを制御する

 PARLを欠損した細胞においてSmacは切断されず,ミトコンドリア内膜に挿入された状態のSmacが観察された.PARLを欠損した細胞においては,アポトーシスが誘導された際にもSmacは細胞質へと放出されず,アポトーシスに対し強い抵抗性を示した.この現象は,HeLa細胞,HCT116細胞,マウスの繊維芽細胞など,さまざまな細胞において観察された.
 PARLによるSmacの切断には2つの意義がある.膜の内部において切断することによりSmacを可溶性に変換すること,XIAPの阻害に必要なN末端のIAP結合モチーフを生じることである.実際に,PARL欠損細胞の表現型は細胞質へと放出される可溶性のSmacの欠乏によるものかどうかを検証するため,Smacのペプチド模倣体であるBV-6をPARL欠損細胞に投与した.その結果,PARL欠損細胞においてみられたアポトーシス抵抗性の表現型が回復した.また,PARL欠損細胞に切断型の可溶性のSmacを発現させてもアポトーシス抵抗性の表現型が回復したことから,PARLはSmacを切断することによりアポトーシスを正に制御することが証明された.さらに,Smacの下流にあるXIAPのノックダウンによってもPARL欠損細胞の表現型が回復したことから,PARL-Smac-XIAP経路がアポトーシスを制御することが明らかにされた.
 ミトコンドリアの制御するアポトーシスの経路としては,Smacのかかわる経路だけでなくシトクロムcのかかわる経路が知られている.シトクロムcはミトコンドリア内膜の特徴的な構造であるクリステの内部に存在し,アポトーシスのシグナルによりクリステのリモデリングに依存して細胞質へと放出されアポトーシスを誘導することが知られている.過去の知見により,シトクロムcの放出はクリステのリモデリングに依存するのに対し,Smacの放出はクリステのリモデリングには依存しないことがわかっていたが8),今回の研究により,Smacの放出はPARLに依存するがシトクロムcは依存しないことが明らかにされ,この2つの経路は完全に独立であることがわかった(図2).

figure2

おわりに

 PARLはSmacの切断を介してアポトーシスを正に制御することが明らかにされた.正常な細胞においてミトコンドリアに輸送されたSmacはPARLにより切断され,ミトコンドリアの内部にとどまる.ミトコンドリアにおけるSmacの機能についてはまだ解明されていない.しかし,細胞がアポトーシスのシグナルをうけると,ミトコンドリアに穴があきSmacは細胞質へと放出されてアポトーシスを誘導する.つまり,アポトーシスを誘導する危険なタンパク質をミトコンドリアに閉じ込めておき,アポトーシスのシグナルがあればいつでも迅速にアポトーシスを誘導する“ready”の状態を,細胞はたくみに維持しているものと考えられた.
 一方で,今回の実験はすべて培養細胞を用いていたため,個体におけるPARLとSmacとの関連性についてはさらなる検証が必要である.実際に,Smacノックアウトマウスの表現型はほぼ正常であるため,PARLノックアウトマウスの表現型は説明できない.今回の解析により,PARLの基質は既知の2つを含め少なくとも6つあることがわかったことにより,PARLノックアウトマウスの表現型はそれらが複合的に影響した結果である可能性も考えられる.また,組織に特異的に発現するPARLの基質の存在する可能性もあり,PARLが何を切断しどの機能を制御するのか,その全貌が明らかにされるにはさらなる時間と労力が必要だろう.

文 献

  1. Tatsuta, T. & Langer, T.: Quality control of mitochondria: protection against neurodegeneration and ageing. EMBO J., 27, 306-314 (2008)[PubMed]
  2. Quiros, P. M., Langer, T. & Lopez-Otin, C.: New roles for mitochondrial proteases in health, ageing and disease. Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 16, 345-359 (2015)[PubMed]
  3. Spinazzi, M. & De Strooper, B.: PARL: The mitochondrial rhomboid protease. Semin. Cell Dev. Biol., 60, 19-28 (2016)[PubMed]
  4. Cipolat, S., Rudka, T., Hartmann, D. et al.: Mitochondrial rhomboid PARL regulates cytochrome c release during apoptosis via OPA1-dependent cristae remodeling. Cell, 126, 163-175 (2006)[PubMed]
  5. Jeyaraju, D. V., McBride, H. M., Hill, R. B. et al.: Structural and mechanistic basis of Parl activity and regulation. Cell Death Differ., 18, 1531-1539 (2011)[PubMed]
  6. Venne, A. S., Vogtle, F. N., Meisinger, C. et al.: Novel highly sensitive, specific, and straightforward strategy for comprehensive N-terminal proteomics reveals unknown substrates of the mitochondrial peptidase Icp55. J. Proteome Res., 12, 3823-3830 (2013)[PubMed]
  7. Shi, Y.: A structural view of mitochondria-mediated apoptosis. Nat. Struct. Biol., 8, 394-401 (2001)[PubMed]
  8. Otera, H., Miyata, N., Kuge, O. et al.: Drp1-dependent mitochondrial fission via MiD49/51 is essential for apoptotic cristae remodeling. J. Cell Biol., 212, 531-544 (2016)[PubMed]

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著者プロフィール

細田 將太郎(Shotaro Saita)
略歴:2013年 九州大学大学院医学系学府博士課程 修了,同年 久留米大学分子生命科学研究所 博士研究員を経て,2014年よりドイツCologne大学 博士研究員.
研究テーマ:ミトコンドリアプロテアーゼの機能の解析.
抱負:プロテアーゼにより制御される細胞の機能を解き明かしたい.扉を開けてみるまでわからない,プロテアーゼの無限の可能性に惹きつけられています.

Thomas Langer
ドイツCologne大学 教授.
研究室URL:http://www.genetik.uni-koeln.de/groups/Langer/

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