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FOXP3陽性CD4陽性T細胞のサブポピュレーションは大腸直腸がんの予後を相反する方向に制御する

西塔拓郎・西川博嘉・坂口志文
(大阪大学免疫学フロンティア研究センター 実験免疫学)
email:西川博嘉坂口志文
DOI: 10.7875/first.author.2016.042

Two FOXP3+CD4+ T cell subpopulations distinctly control the prognosis of colorectal cancers.
Takuro Saito, Hiroyoshi Nishikawa, Hisashi Wada, Yuji Nagano, Daisuke Sugiyama, Koji Atarashi, Yuka Maeda, Masahide Hamaguchi, Naganari Ohkura, Eiichi Sato, Hirotsugu Nagase, Junichi Nishimura, Hirofumi Yamamoto, Shuji Takiguchi, Takeshi Tanoue, Wataru Suda, Hidetoshi Morita, Masahira Hattori, Kenya Honda, Masaki Mori, Yuichiro Doki, Shimon Sakaguchi
Nature Medicine, 22, 679-684 (2016)




要 約


 FOXP3を発現するCD4陽性T細胞は制御性T細胞としてはたらき,腫瘍免疫を抑制すると考えられている.多くのがん腫において,腫瘍へのFOXP3陽性T細胞の豊富な浸潤は予後不良因子であると報告されているが,大腸直腸がんにおいては評価が一定していない.筆者らは,FOXP3およびCD45RAをマーカーとすることにより,FOXP3陽性T細胞には3つのサブポピュレーションが存在し,とくに,FOXP3低発現CD45RA陰性T細胞は免疫抑制能をもたない非制御性T細胞であることを示してきた.今回,大腸直腸がんより抽出した腫瘍に浸潤したリンパ球において,この免疫抑制能をもたないFOXP3低発現CD45RA陰性細胞が多く存在する腫瘍の存在が明らかにされた.さらに,FOXP3低発現T細胞が多く浸潤するタイプの大腸直腸がんにおいては,腸内細菌が腫瘍へと浸潤することにより炎症反応を惹起し,FOXP3低発現T細胞の分化を誘導し腫瘍免疫を亢進することが示された.炎症の生じていない腫瘍においてはFOXP3陽性T細胞の高度の浸潤は予後不良因子であったが,高度に炎症を生じている腫瘍では逆の傾向が示された.以上より,大腸直腸がんに浸潤するFOXP3低発現T細胞およびFOXP3高発現T細胞は,腫瘍免疫を相反する方向に制御することが明らかにされた.くわえて,腸内細菌が腫瘍に生じた炎症を介し腫瘍に対する免疫応答を亢進する可能性のあることが示され,腸内細菌の制御が大腸直腸がんの治療に応用されることが期待された.

はじめに


 FOXP3を発現するCD4陽性細胞は制御性T細胞としてはたらき,さまざまな免疫細胞を抑制する機能をもつ1,2).筆者らは,ヒトの末梢血単核球において,FOXP3陽性CD4陽性T細胞はFOXP3およびCD45RAをマーカーとすると,ナイーブ制御性T細胞である画分I細胞(FOXP3低発現CD45RA陽性),画分I細胞より分化したエフェクター制御性T細胞である画分II細胞(FOXP3高発現CD45RA陰性),さらに,免疫抑制能をもたず炎症性サイトカインを分泌する非制御性T細胞である画分III細胞(FOXP3低発現CD45RA陰性),の3つのサブポピュレーションに分類されることを示してきた3,4).一般的に,制御性T細胞は腫瘍免疫を阻害すると考えられており,多くのがん腫においてFOXP3陽性T細胞の腫瘍への浸潤は予後不良因子であることが示されている2,5,6).しかしながら,大腸直腸がんにおいては腫瘍へのFOXP3陽性T細胞の豊富な浸潤は予後良好因子であるとの報告もなされており,FOXP3陽性T細胞の浸潤と患者の予後との関係に関しては一定の評価がなされていないのが現状である6-8).この研究においては,腫瘍に浸潤したリンパ球におけるFOXP3陽性CD4陽性T細胞のサブポピュレーションは大腸直腸がんの予後にどう関連するかについて検討した.
 なお,制御性T細胞については,濱口真英・坂口志文, 領域融合レビュー, 2, e005, 2013,がん免疫療法については,杉山大介・西川博嘉, 領域融合レビュー, 4, e005, 2015 も参照されたい.

1.大腸直腸がんにはFOXP3低発現CD4陽性T細胞が豊富に浸潤する腫瘍が存在する


 ヒトの大腸直腸がんより抽出した腫瘍に浸潤したリンパ球においてどのようなFOXP3陽性T細胞が存在するかを解析するため,CD4陽性T細胞におけるFOXP3陽性T細胞のサブポピュレーションをex vivoにおいてフローサイトメーターを用いて評価した.新鮮標本35例を解析したところ,約半数の検体において多数のFOXP3低発現T細胞(画分III細胞)が浸潤していた.FOXP3低発現T細胞の浸潤が少ない大腸直腸がんをタイプA,FOXP3低発現T細胞の浸潤が多く存在する大腸直腸がんをタイプBと規定したところ,CD4陽性T細胞におけるFOXP3高発現T細胞(画分II細胞)の割合はタイプAとタイプBとで同等であった.同様に悪性黒色腫においても検討したが,FOXP3低発現T細胞の浸潤は少なく,FOXP3低発現T細胞の腫瘍への浸潤は大腸直腸がんにおいて特徴的であった.
 大腸直腸がんにおけるFOXP3陽性T細胞のサブポピュレーションの機能を解析するため,免疫抑制能,CTLA-4あるいはTIGITといった免疫抑制タンパク質の発現,インターフェロンγおよびインターロイキン17の産生能を評価するとともに,FOXP3遺伝子のイントロン1領域のDNAメチル化について解析した9).FOXP3低発現T細胞は免疫抑制能をもたず,FOXP3高発現T細胞と比較しCTLA-4およびTIGITの発現が低く,インターフェロンγを高く産生していた.インターロイキン17はFOXP3低発現T細胞およびFOXP3高発現T細胞において発現していた.また,FOXP3高発現T細胞においてはFOXP3遺伝子のイントロン1領域がほとんど脱メチル化していたのに対し,FOXP3低発現T細胞の半数においてはメチル化が認められた.
 以上より,大腸直腸がんにおいて腫瘍に浸潤したFOXP3陽性T細胞には,免疫抑制能をもつFOXP3高発現T細胞と免疫抑制能をもたないFOXP3低発現T細胞とが混在しており,約半数の大腸直腸がんにおいてFOXP3低発現T細胞が豊富に浸潤していることが確認された.

2.FOXP3低発現CD4陽性T細胞の分化にはインターロイキン12およびTGFβが関連する


 タイプAおよびタイプBの大腸直腸がんにおける腫瘍の形成および増殖にかかわる因子を網羅的に比較することにより,腫瘍に浸潤したリンパ球のサブポピュレーションが異なる原因について検討した.タイプAおよびタイプBの大腸直腸がんについて,おのおの2つの症例より抽出したmRNAを用い,マイクロアレイ法により遺伝子の発現を網羅的に解析したところ,タイプBの大腸直腸がんにおいては免疫応答および炎症反応に関連する遺伝子の発現が亢進していた.35症例のmRNAを用いて定量PCR法により遺伝子の発現を解析したところ,タイプBの大腸直腸がんにおいてはインターロイキン12,TGFβ,TNFαをコードするmRNAの発現が有意に高値であった.
 これらのサイトカインがFOXP3陽性T細胞の分化にあたえる影響をin vitroでの細胞培養により評価した.健常人の末梢血単核球よりCD25陰性CD45RA陽性ナイーブCD4陽性T細胞を単離し,CD3およびCD28に対する刺激とともにインターロイキン12,TGFβ,TNFαを添加し,7日後にCD4陽性T細胞におけるFOXP3低発現T細胞とFOXP3高発現T細胞との割合をフローサイトメトリーにより評価した.その結果,TGFβはFOXP3高発現T細胞の分化を誘導したが,インターロイキン12はTGFβによるFOXP3高発現T細胞の分化を抑制し,TGFβとインターロイキン12との組合せにおいてFOXP3低発現T細胞の分化がもっとも高頻度に誘導された.また,TGFβおよびインターロイキン12により分化の誘導されたFOXP3低発現T細胞は,大腸直腸がんに浸潤したリンパ球におけるFOXP3低発現T細胞と同様に,インターフェロンγを産生していた.また,大腸直腸がんのホルマリン固定パラフィン包埋組織スライドを用いて,これらのサイトカインの局在をRNA in situハイブリダイゼーション法により評価したところ,腫瘍細胞ではなく繊維芽細胞などの間質細胞がこれらのサイトカインを発現していた.
 以上より,タイプAおよびタイプBの大腸直腸がんは異なる遺伝子発現プロファイルをもち,タイプBの大腸直腸がんにおいてはインターロイキン12やTGFβをはじめとした免疫応答および炎症反応に関連するタンパク質の発現が高く,腫瘍に浸潤したリンパ球に存在するFOXP3低発現T細胞は,これらのサイトカインによりCD25陰性CD45RA陽性ナイーブCD4陽性T細胞から分化の誘導された非制御性T細胞であると考えられた.

3.炎症の生じていない腫瘍においてFOXP3陽性T細胞の高度の浸潤は予後不良因子になる


 タイプAおよびタイプBの大腸直腸がんをインターロイキン12をコードするmRNAおよびTGFβをコードするmRNAの発現より分類すると,タイプAの大腸直腸がんはインターロイキン12およびTGFβ低発現,タイプBの大腸直腸がんはインターロイキン12およびTGFβ高発現となり,タイプを予測することができた.別の大腸直腸がんの症例109例について,この方法を用いて分類し,おのおののタイプにおいてFOXP3をコードするmRNAの発現が予後へどう影響するかについて検討した.その結果,タイプAの大腸直腸がんはタイプBの大腸直腸がんと比較し,FOXP3の発現が低値であったのにもかかわらず,予後に関しては有意に不良であった.さらに,FOXP3陽性T細胞の大部分が免疫抑制能をもつFOXP3高発現T細胞であるタイプAの大腸直腸がんにおいてはFOXP3の高発現が予後不良因子であったのに対し,FOXP3陽性T細胞の半数以上が免疫抑制能を示さないFOXP3低発現T細胞であるタイプB大腸直腸がんにおいては,むしろ,FOXP3の高発現は予後良好な傾向を示した.以上より,FOXP3高発現T細胞の浸潤が予後の不良に関連するのに対し,FOXP3低発現T細胞がそれと反する臨床効果にかかわることが示唆された.

4.腸内細菌の腫瘍への浸潤が腫瘍における炎症を惹起する


 タイプBの大腸直腸がんにおいて炎症反応の生じる原因を究明するため,大腸直腸がんに付着する腸内細菌の評価を,大腸直腸がんのホルマリン固定パラフィン包埋組織スライドを用いて,蛍光in situハイブリダイゼーション法および大腸直腸がんの新鮮標本の表面より抽出した16S DNAを用いた16S DNAシークエンシング法により評価した.蛍光in situハイブリダイゼーション法において,細菌およびFusobacterium属細菌に対する抗体により染色したところ,タイプBの大腸直腸がんにおいては腸内細菌,とりわけ,Fusobacterium属細菌の浸潤が認められたのに対し,タイプAの大腸直腸がんにおいては腸内細菌の腫瘍への浸潤は認めらなかった.16S DNAシークエンシング法においても,タイプBの大腸直腸がんにおいてのみ,細菌Fusobacterium nucleatumが検出された.F. nucleatumはFad-Aをつうじて腫瘍にがん化シグナルおよび炎症シグナルを伝達することが示されている10).これらの遺伝子の発現を定量PCR法により評価したところ,タイプBの大腸直腸がんにおいてCCDN1遺伝子およびNFKB2遺伝子の発現が高く,腸内細菌の腫瘍への浸潤が炎症反応を惹起し,それにともない産生されたサイトカインが腫瘍の局所においてFOXP3低発現T細胞の分化に関与することが示唆された(図1).




おわりに


 大腸直腸がんは浸潤するFOXP3陽性T細胞のサブポピュレーションの割合により2つのタイプに分類され,とくに免疫抑制能をもたないFOXP3低発現T細胞の存在が分類において重要な因子あることが明らかにされた.また,大腸直腸がんに付着する腸内細菌により腫瘍において炎症反応が惹起され,それにともないFOXP3低発現T細胞の分化が誘導されることにより腫瘍免疫が亢進することが解明された.逆に,FOXP3高発現T細胞である一般的な制御性T細胞は,ほかのがん腫と同様に,腫瘍に対する免疫応答の抑制にはたらくことが示された.大腸直腸がんにおいては,いまだ一部の腫瘍でしかがん免疫療法の効果が認められず,この研究の成果により新たな標的となる患者が明らかにされるとともに,制御性T細胞を標的としたがん免疫療法の可能性が示唆された.くわえて,腸内細菌が腫瘍に生じた炎症を介して腫瘍に対する免疫応答を亢進する可能性のあることが示され,腸内細菌の制御が大腸直腸がんの治療への腸内細菌の制御が大腸直腸がんの治療に応用されることが期待される.

文 献



  1. Sakaguchi, S.: Naturally arising Foxp3-expressing CD25+CD4+ regulatory T cells in immunological tolerance to self and non-self. Nat. Immunol., 6, 345-352 (2005)[PubMed]

  2. Nishikawa, H. & Sakaguchi, S.: Regulatory T cells in cancer immunotherapy. Curr. Opin. Immunol., 27, 1-7 (2014)[PubMed]

  3. Miyara, M., Yoshioka, Y., Kitoh, A. et al.: Functional delineation and differentiation dynamics of human CD4+ T cells expressing the FoxP3 transcription factor. Immunity, 30, 899-911 (2009)[PubMed]

  4. Sugiyama, D., Nishikawa, H., Maeda, Y. et al.: Anti-CCR4 mAb selectively depletes effector-type FoxP3+CD4+ regulatory T cells, evoking antitumor immune responses in humans. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 17945-17950 (2013)[PubMed]

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著者プロフィール


西塔 拓郎(Takuro Saito)
略歴:2015年 大阪大学大学院医学系研究科 修了,同年 米国Columbia大学を経て,同年 米国Icahn School of Medicine at Mount Sinaiポスドク研究員.
研究テーマ:固形がんにおける免疫治療およびその機構.
抱負:消化器がんにおいて,免疫チェックポイント分子治療薬を中心としたがん免疫治療を,集学的な治療のひとつのモダリティとして適応することに貢献したい.

西川 博嘉(Hiroyoshi Nishikawa)
国立がん研究センター先端医療開発センター 分野長.

坂口 志文(Shimon Sakaguchi)
大阪大学免疫学フロンティア研究センター 教授.
研究室URL:http://exp.immunol.ifrec.osaka-u.ac.jp/

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