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成人T細胞白血病における網羅的な遺伝子解析

2015年10月28日

片岡圭亮・小川誠司
(京都大学大学院医学研究科 腫瘍生物学講座)
email:片岡圭亮
DOI: 10.7875/first.author.2015.122

Integrated molecular analysis of adult T cell leukemia/lymphoma.
Keisuke Kataoka, Yasunobu Nagata, Akira Kitanaka, Yuichi Shiraishi, Teppei Shimamura, Jun-ichirou Yasunaga, Yasushi Totoki, Kenichi Chiba, Aiko Sato-Otsubo, Genta Nagae, Ryohei Ishii, Satsuki Muto, Shinichi Kotani, Yosaku Watatani, June Takeda, Masashi Sanada, Hiroko Tanaka, Hiromichi Suzuki, Yusuke Sato, Yusuke Shiozawa, Tetsuichi Yoshizato, Kenichi Yoshida, Hideki Makishima, Masako Iwanaga, Guangyong Ma, Kisato Nosaka, Masakatsu Hishizawa, Hidehiro Itonaga, Yoshitaka Imaizumi, Wataru Munakata, Hideaki Ogasawara, Toshitaka Sato, Ken Sasai, Kenzo Muramoto, Marina Penova, Takahisa Kawaguchi, Hiromi Nakamura, Natsuko Hama, Kotaro Shide, Yoko Kubuki, Tomonori Hidaka, Takuro Kameda, Tsuyoshi Nakamaki, Ken Ishiyama, Shuichi Miyawaki, Sung-Soo Yoon, Kensei Tobinai, Yasushi Miyazaki, Akifumi Takaori-Kondo, Fumihiko Matsuda, Kengo Takeuchi, Osamu Nureki, Hiroyuki Aburatani, Toshiki Watanabe, Tatsuhiro Shibata, Masao Matsuoka, Satoru Miyano, Kazuya Shimoda, Seishi Ogawa
Nature Genetics, 47, 1304-1315 (2015)

要 約

 成人T細胞白血病はレトロウイルスであるHTLV-1によりひき起こされるT細胞の腫瘍であり,その体細胞異常の遺伝学的な基盤はこれまでほとんど解明されていなかった.筆者らは,成人T細胞白血病の426例の症例において全エキソン解析,全ゲノム解析,標的シークエンスによる変異解析,さらに,RNAシークエンス,SNPアレイによるコピー数の解析,DNAメチル化解析を含む包括的な遺伝子解析により,その体細胞異常について全体像を明らかにした.それらの異常は,T細胞受容体/NF-κBシグナル伝達経路をはじめT細胞に関連するシグナル伝達経路に強く集積していた.この研究の結果は,T細胞シグナル伝達系の鍵タンパク質について新たな知見をもたらすのみならず,難治性である成人T細胞白血病の診断法および治療法の発展に有用な示唆をあたえるものと期待される.

はじめに

 成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia/lymphoma:ATL)はレトロウイルスであるHTLV-1(human T-cell leukemia virus type-1)によりひき起こされる予後不良のT細胞の腫瘍であり,とくにわが国に多い1).これまで,HTLV-1にコードされるTaxやHBZなどのタンパク質がその発症に重要であると考えられてきたが,HTLV-1の感染から発症までの潜伏期間が長いことから,発症には体細胞異常の獲得が不可欠ではないかと考えられていた2).しかし,これまで,いくつかの遺伝子における変異やコピー数の異常は報告されてきたが,ゲノム異常の全体像はほとんど明らかにされていなかった.筆者らは,成人T細胞白血病を対象とする包括的な遺伝子解析により,その体細胞異常の全体像を明らかにした.

1.成人T細胞白血病における遺伝子異常の全体像

 成人T細胞白血病における遺伝子異常の全体像を明らかにするため,全エキソン解析,全ゲノム解析,トランスクリプトーム解析,コピー数の解析,DNAメチル化解析を含む426例の遺伝子解析を行い,多数の遺伝子変異,コピー数の異常,遺伝子構造の異常を明らかにした.83例の成人T細胞白血病と正常とのペアを対象として全エキソン解析および全ゲノム解析を実施することにより,6404個の遺伝子変異が同定された.さらに,有意に変異を起こしている遺伝子を同定するため,370例にわたる成人T細胞白血病のコホートにおいて標的シークエンスを実施した結果,50個の遺伝子において有意に変異が認められることが明らかにされ,そのうち13個には10%以上の症例において変異が認められた.成人T細胞白血病の426例の症例を対象としてSNPアレイを実施することにより,26個のコピー数の増加および50個のコピー数の減少が同定された.コピー数の異常の同定された遺伝子は,遺伝子変異の認められた遺伝子と有意に重複していた.48例の成人T細胞白血病と正常とのペアを対象として全ゲノム解析を実施することにより,2857個の遺伝子構造の異常が同定された.染色体脆弱部位と考えられる領域に欠失が集積しており,もっとも多い領域では60%をこえる症例に欠失が認められた.これらの領域に多発する欠失は成人T細胞白血病におけるゲノム不安定性を反映すると考えられた.

2.T細胞受容体/NF-κBシグナル伝達経路における活性型の変異の集積

 成人T細胞白血病のゲノム異常におけるもっとも顕著な特徴は,T細胞受容体/NF-κBシグナル伝達経路および関連するシグナル伝達経路に遺伝子異常が高度に集積していることであった(図1).この研究のコホートにおいては90%をこえる症例においてT細胞受容体/NF-κBシグナル伝達経路に異常が認められ,このシグナル伝達経路の異常が成人T細胞白血病の病態において中心的な役割をはたすことが示唆された.さらに,T細胞受容体/NF-κBシグナル伝達経路には活性型の変異が集積していた.もっとも高頻度に変異が認められたのはPLCG1遺伝子であったが,この遺伝子はT細胞受容体/NF-κBシグナル伝達経路における鍵タンパク質であるホスホリパーゼCγ1をコードする3).最近,皮膚T細胞リンパ腫においてPLCG1遺伝子の異常が同定され活性型の変異であることが示されたが,成人T細胞白血病においては,それ以外にもホットスポット変異が認められた.

figure1

 成人T細胞白血病において2番目に高頻度に変異が認められたのはPRKCB遺伝子であったが,この遺伝子はホスホリパーゼCγ1の下流において機能するシグナル伝達タンパク質であるプロテインキナーゼCβをコードする4,5).プロテインキナーゼCβはB細胞受容体シグナル伝達系における鍵タンパク質であり,T細胞受容体シグナル伝達系におけるカウンタパートとしてプロテインキナーゼCθが知られていたため,T細胞の腫瘍である成人T細胞白血病においてプロテインキナーゼCβに変異が認められたことは予想外であった.最近,さまざまな悪性腫瘍においてPRKCB遺伝子の変異が散発的に認められ,機能喪失型の変異として機能することが報告されている6).成人T細胞白血病において認められたPRKCB遺伝子の変異はその93%が高度に保存されているキナーゼドメインに位置しており顕著なホットスポットを形成したため,機能獲得型の変異であると考えられた.この予想は,このホットスポットに変異を導入したプロテインキナーゼCβのヒトの細胞株における強制発現により確認された.このPRKCB遺伝子の変異は,ヒトの悪性腫瘍においてはじめて同定されたプロテインキナーゼCの機能獲得型の変異であると考えられた.
 プロテインキナーゼCの下流において機能するシグナル伝達タンパク質であるCARD11は,抗原受容体による誘導されるNF-κBの活性化に必須の足場タンパク質である4,5).B細胞リンパ腫においてCARD11遺伝子の変異が認められることが報告されているが7),成人T細胞白血病においては約24%の症例に認められ,より高頻度であった.B細胞の腫瘍では,コイルドコイルドメインに変異が集積することが知られているが,成人T細胞白血病ではコイルドコイルドメインのほかにプロテインキナーゼCと相互作用する抑制性ドメインにも変異の集積が認められホットスポットを形成していた.この抑制性ドメインはCARD11の自己抑制に関与することが知られており,その欠損によりCARD11の恒常的な活性化がひき起こされることが報告されている8).全ゲノムシークエンスによりCARD11遺伝子に変異をもたない例を含む4例においてこの抑制性ドメインに微小な欠失が認められ,RNAシークエンスにより対応するエキソンが転写産物においても欠損していることが確認された.これらの結果から,CARD11遺伝子に生じた異常の頻度は遺伝子変異のみから推定された頻度よりも高いことが示唆された.さらに,CARD11遺伝子の変異の特徴として,PRKCB遺伝子の変異と有意に共存することがあり,CARD11遺伝子とPRKCB遺伝子に機能的な関連のあることが示唆された.実際に,in vitroにおける機能解析において,CARD11変異体の強制発現によりNF-κBの活性化が誘導されたが,この活性化はプロテインキナーゼCβの変異体を同時に発現されることにより相乗的に増強されることが確認された.

3.B7/CD28共刺激経路における異常

 成人T細胞白血病の57例の症例におけるRNAシークエンスの結果,17個のフレームシフトの生じていない融合遺伝子が同定された.このなかで特筆すべき異常として,CTLA4-CD28融合遺伝子およびICOS-CD28融合遺伝子があげられた.リアルタイムPCR法を組み合わせ105例についてスクリーニングしたところ,5例のCTLA4-CD28融合遺伝子および3例のICOS-CD28融合遺伝子が認められた.さらに,全ゲノムシークエンスにより,これらの融合遺伝子をもつ症例においてCD28遺伝子,CTLA4遺伝子,ICOS遺伝子を含む領域のタンデムな重複が認められ,これが遺伝子の融合の原因と考えられた.CD28,CTLA4,ICOSを含むB7/CD28共シグナル伝達タンパク質は免疫グロブリンスーパーファミリーに属し,T細胞受容体シグナル伝達系の正または負の制御タンパク質として主要な役割をはたす9).成人T細胞白血病において認められた融合遺伝子においては,すべての症例においてCD28遺伝子の細胞内ドメインとCTLA4遺伝子あるいはICOS遺伝子のN末端側とが結合し,融合遺伝子の発現はCTLA4遺伝子あるいはICOS遺伝子による制御機構のもとにおかれていると予測された.正常なT細胞においては,活性化にともないCD28の発現が低下しCTLA4およびICOSの発現が上昇する.それとは逆に,この融合遺伝子をもつ成人T細胞白血病の腫瘍細胞においては,CTLA4およびICOSの発現の上昇がCTLA4-CD28融合タンパク質あるいはICOS-CD28融合タンパク質と置き換わることにより,CD28により共刺激シグナルの持続が起こると予測された.さらに,CD28よりもCTLA4はリガンドであるB7と強く結合するが,一部の融合遺伝子産物では細胞外ドメインの置換によりリガンドとの結合が増強し,CD28による共刺激シグナルの亢進が起こると考えられた.同時に,成人T細胞白血病においてCD28遺伝子にはコピー数の高度な増幅やミスセンス変異が認められた.CD28において反復して生じた変異はB7と相互作用する結合ドメインにおける変異であり,CTLA4やICOSにおいて特異的に認められるアミノ酸残基に置換することによりCD28による共刺激シグナルの増強がひき起こされると考えられた.

4.ケモカイン受容体における活性型の変異

 成人T細胞白血病において,T細胞の遊走にかかわるケモカイン受容体をコードするCCR4遺伝子およびCCR7遺伝子において高い頻度で異常が認められた.ほとんどの症例において,CCR4遺伝子およびCCR7遺伝子に認められた変異はC末端側の細胞内ドメインを切断するナンセンス変異またはフレームシフト変異であった.成人T細胞白血病においてCCR4およびCCR7は高く発現しており,T細胞の浸潤に関係していると考えられている.CCR4変異体およびCCR7変異体の強制発現により,これらの変異が機能獲得型の変異として機能することが示された.同時に,成人T細胞白血病の患者の検体において,CCR4遺伝子に変異をもつ症例においてCCR4の発現が上昇していた.

5.DNAメチル化の異常

 成人T細胞白血病の109例の症例を対象としたDNAメチル化解析により,約40%においてプロモーター領域に属するCpGアイランドの過メチル化,すなわち,CpGアイランドメチル化形質が認められた.CpGアイランドメチル化形質を呈する症例は急性型あるいはリンパ腫型の進行性の病型が多く,さらに,全生存率の低下が認められた.このことから,成人T細胞白血病においてCpGアイランドメチル化形質は予後不良な表現型と関連すると考えられた.さらに,2つの遺伝子ファミリーにおいて,過メチル化かつ発現の低下が認められた遺伝子の高度な集積が認められた.1つ目はヒトにおいて最大の転写因子遺伝子ファミリーであるC2H2ジンクフィンガー遺伝子ファミリーであり,内在性および外在性のレトロウイルスの抑制に関与することが報告されている10).2つ目はMHCクラス1遺伝子ファミリーであった.それらのうち,HLA-A遺伝子およびHLA-B遺伝子には成人T細胞白血病において機能喪失型の遺伝子変異およびコピー数の欠失が認められたことから,MHCクラス1遺伝子ファミリーはさまざまな機構により機能喪失がひき起こされており,その結果,腫瘍細胞の免疫回避に関与すると考えられた11)

おわりに

 この研究において,さまざまなプラットフォームを用いた網羅的な遺伝子解析により,成人T細胞白血病における遺伝子異常の全体像が明らかにされた.とくに,T細胞受容体/NF-κBシグナル伝達経路を中心に機能獲得型の変異が高頻度に認められたことは,成人T細胞白血病の特徴と考えられた.また,成人T細胞白血病において認められた体細胞異常は,Taxと相互作用するあるいはTaxの下流において機能するタンパク質12) に有意に集積しており,T細胞は免疫原性の高いTaxを不活性化することにより免疫担当細胞からの攻撃を回避し,その機能を代替する体細胞異常を獲得することにより白血病化あるいはリンパ腫化をひき起こしていると考えられた.これらの知見は,成人T細胞白血病の分子病態の解明,および,その診断法および治療法の改善に有用な示唆をあたえるものと期待される.

文 献

  1. Ishitsuka, K. & Tamura, K.: Human T-cell leukaemia virus type I and adult T-cell leukaemia-lymphoma. Lancet Oncol., 15, e517-e526 (2014)[PubMed]
  2. Matsuoka, M. & Jeang, K. T.: Human T-cell leukaemia virus type 1 (HTLV-1) infectivity and cellular transformation. Nat. Rev. Cancer, 7, 270-280 (2007)[PubMed]
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生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.

著者プロフィール

片岡 圭亮(Keisuke Kataoka)
略歴:2012年 東京大学大学院医学系研究科博士課程 修了,同年 同 特任助教を経て,2013年より京都大学大学院医学研究科 特定助教.
研究テーマ:造血器腫瘍の遺伝学的および生物学的な解析.
抱負:遺伝学的な基盤にもとづいた造血器腫瘍の発症機構の解明をめざしたい.

小川 誠司(Seishi Ogawa)
京都大学大学院医学研究科 教授.
研究室URL:http://plaza.umin.ac.jp/kyoto_tumorpatho/

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