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First author's

階層的な多振動子からなるネットワークがシロイヌナズナの概日時計を制御する

2015年10月23日

高橋 望・Paloma Mas
(スペインCentre for Research in Agricultural Genomics,Molecular Genetics Department)
email:高橋 望
DOI: 10.7875/first.author.2015.116

A hierarchical multi-oscillator network orchestrates the Arabidopsis circadian system.
Nozomu Takahashi, Yoshito Hirata, Kazuyuki Aihara, Paloma Mas
Cell, 163, 148-159 (2015)

要 約

 約24時間の地球の自転の周期に適応するため,生物は体内に概日時計をもつ.そして,自己の時間の情報を統合するため,体内における概日時計のあいだのコミュニケーションが不可欠である.しかし,植物において,個々の細胞における概日時計がどのように相互作用し,全体として概日リズムを刻んでいるかについての研究はあまり進んでいない.筆者らは,シロイヌナズナを用いて,器官ごとの概日時計の機能および器官どうしの概日時計のコミュニケーションについて調べ,茎頂において細胞の個々の概日時計が互いに同調して器官の概日リズムを構成し,さらに,根における概日リズムを制御していることを明らかにした.生細胞イメージング,分散したプロトプラストの脱同調,高次元空間での重心座標を用いた数学的な解析などから,おのおのの器官の概日時計には階層的な差異があり,そのなかでも,茎頂にある概日時計どうしがもっとも強く共役していることが見い出され,同調の強さが概日時計に頑強性および特異的な位相の制御能をもたらしていることが示された.また,茎頂の切除および接ぎ木が根における概日リズムに影響を及ぼしたことから,茎頂が離れた場所の概日時計を制御していることがわかった.哺乳類における視交叉上核と同様に,植物においても茎頂を頂点とした概日時計の階層的な構造が存在すると考えられた.

はじめに

 約24時間の地球の自転がもたらす周期による環境の変化に適応するため,およそすべての生物は体内に概日時計とよばれる分子機構をもち,生理的な機能の最適化をはかっている.哺乳類では視床下部にある視交叉上核に中枢時計が存在し,全身の末梢時計を制御する階層的な構造のあることが認められている1).一方,植物の概日時計は個々の細胞において自律的に機能していると考えられてきたため,多くの研究は植物の全体を単位としていた.しかし,近年,植物においても,葉において維管束の概日時計が特異的に機能して葉肉の概日時計を制御していることや2),シュートと根では概日時計の機能に差異があり両者のあいだでシグナルが伝達されていることなどが報告され3),植物の概日時計における器官あるいは組織ごとの特異性が認識されてきた.筆者らは,概日時計の器官ごとの機能をより深く知るため,モデル植物であるシロイヌナズナを用いた.

1.分離された器官には概日リズムの頑健性および精度に差異がある

 器官を分離し,概日時計において中心振動体を担う2つの時計遺伝子,朝に発現するCCA1遺伝子および夜に発現するTOC1遺伝子について,それぞれの遺伝子のプロモーター領域とルシフェラーゼ遺伝子とを連結したレポーター系をもつ形質転換体を用いて,恒明条件において器官ごとの概日リズムを観察した.その結果,胚軸においては周期の延長および振幅のゆるやかな減衰がみられ,根においては2日ほどで概日リズムが消失した.根における概日リズムの消失はシュートからの栄養分の供給が失われたためである可能性が考えられたことから,スクロースを添加した培地において同様に実験したところ,概日リズムは継続したものの周期の大幅な延長がみられた.スクロースの存在のもとでは概日リズムが継続したことから,器官の分離それ自体により概日リズムが失われたのではないことが示唆された.また,概日リズムの消失した根にスクロースを添加してもその回復は観察されなかった.葉においてはスクロースの有無にかかわらず平均として位相の前進がみられた.

2.茎頂の概日時計は同期および位相の制御において特異な性質をもつ

 分離された茎頂を観察したところ,植物の全体と非常に近い概日リズムがみられ,周期,位相,振幅において均一性の高いことがわかった.この結果は,試料のあいだで概日リズムに大きな差のあった葉とは対照的であった.茎頂と葉の大きさの違いが影響をあたえた可能性を考慮し,葉の一部を茎頂と似た大きさに切り取って同様に実験したが,葉の全体を用いたときと結果は同様であった.これにより,茎頂における概日リズムの均一性の高さは,大きさが小さいことによるものではないことが示された.
 概日時計は恒明条件において概日リズムを維持できる頑健性だけでなく,環境の変化に適応する柔軟性ももちあわせている4).茎頂の概日時計と葉の概日時計とのあいだで光の位相の変化への適応に差があるかどうか調べるため,明暗条件から暗明条件へと位相を12時間ずらした.茎頂においてはTOC1遺伝子については夜間に急速な発現の低下,CCA1遺伝子については夜明けに急速な発現の上昇を示しながら,植物の全体と似たタイミングで再同調した.葉においては,はじめの2日間はピークが二重になり,位相が安定するのに3日間を要した.以上の結果から,茎頂と葉では同調へのふるまいが異なることが明らかにされた.また,植物の全体と比較して茎頂において特異な波形がみられたことから,夜明けおよび夕暮れにおいて概日時計を同調するシグナルに対する茎頂の感受性の高さが示唆された.

3.概日時計の分子ネットワークの構造は茎頂においても保持されている

 概日時計が器官ごとに特徴的な分子ネットワークをもつのかどうか明らかにするため,概日時計の出力系を担う遺伝子の概日リズム,および,中心振動体を担う遺伝子に変異のある場合の概日リズムが,茎頂あるいは葉において示差的に制御されるのかどうか調べた.朝において出力系を担うCAB2遺伝子の茎頂における発現は植物の全体に似ており,葉においては平均的に位相の前進および試料のあいだでの不均質性がみられた.cca1変異体においては概日時計の周期が短くなることが知られており,茎頂および葉において植物の全体と同様にCAB2遺伝子の概日リズムの周期が短縮した.同じく概日リズムの周期が短くなるTOC1遺伝子をRNAi法によりノックダウンした植物にて,夜において出力系を担うCCR2遺伝子も茎頂および葉において概日リズムの周期が短縮した.よって,茎頂および葉における時計遺伝子の発現に大きな差異は認められなかった.
 茎頂における遺伝子発現プロファイルを得るため,JTK_CYCLEアルゴリズム5) を用いたRNA-seq解析を行った結果,既知の時計遺伝子すべてを含む約1400遺伝子の発現が概日リズムを示し,位相および振幅も植物の全体において報告されているものと同様であった.このことから,茎頂と植物の全体とでは概日時計のグローバルな転写ネットワークにおいて大きな差異はないことが示唆された.また,茎頂においては光質,温度,放射線などの環境の変化に反応する遺伝子に強い発現がみられた.明暗条件から暗明条件へと位相をずらす実験において観察された,茎頂の概日時計の特徴的な再同期性との関連も考えられた.

4.細胞の概日時計は器官あるいは組織のあいだで同調性に差異がある

 茎頂の概日リズムを細胞のレベルにおいてより深く調べるため,CCA1遺伝子に蛍光タンパク質をコードする遺伝子を連結したレポーター系を用い6),分離した茎頂の細胞を共焦点レーザー走査型顕微鏡により観察した.その結果,恒明条件における3日後においても個々の細胞のCCA1遺伝子の概日リズムは明瞭に観察され波形の均一性も高かった.別の時計遺伝子であるPRR7遺伝子を用いたレポーター系7) でも同様の結果であった.一方,葉肉の細胞においては,過去の報告6) と同様に,波形にばらつきがみられた.また,共役が報告されていた葉の維管束系の細胞2) において観察したところ,同調性は葉肉の細胞より高く茎頂の細胞より低かった.維管束系には位相が前進する細胞と後退する細胞とがあり,位相が後退する細胞のほうが同調性の高いこともわかった.夜に発現するELF3遺伝子を用いたレポーター系では維管束系の細胞における位相の前進および後退はそれほど顕著ではなかったが8),茎頂の細胞のほうが維管束系の細胞より高い同調性を示した点は同様であった.以上の結果から,個々の細胞の概日リズムの同調性は茎頂,葉肉,維管束系においてそれぞれ異なることが確認された.

5.茎頂における概日時計は細胞のあいだで共役している

 茎頂における概日時計の同調性の高さが細胞のあいだの結びつきによるものだとすれば,細胞のあいだのコミュニケーションが阻害された場合,概日リズムに影響するのではないかと考え,茎頂から単離したプロトプラストを用い細胞の密度を変えて実験した.プロトプラストにおいては2~3日ほどで概日リズムの減衰が起こり,細胞の密度の低い試料ほど減衰の起こるのが早かった.これは,プロトプラストが分散するとともに細胞のあいだのコミュニケーションが失われ,同調性を維持できなくなったためではないかと考えられた.
 哺乳類では視交叉上核から単離された細胞や末梢の組織が概日リズムを維持するために時計タンパク質であるPER1およびCRY1が必須であるが,視交叉上核においてはこれらをコードする遺伝子が欠損していても概日リズムは保たれる9).植物においても類似のケースが見い出され,時計遺伝子であるlux遺伝子の変異体では概日リズムの消失が報告されているが,茎頂ではある程度まで概日リズムが維持されていることが確認された.lux変異体の茎頂から単離したプロトプラストでは概日リズムは失われていたことから.茎頂における概日リズムの維持は細胞のあいだのコミュニケーションによる可能性が示唆された.
 茎頂の概日時計における細胞のあいだコミュニケーションの重要性を数学的に検証するため,高次元空間での重心座標を用いた予測モデルを構築した10).さきに述べた,細胞のレベルの観察の結果をこの予測モデルにより解析した結果,茎頂の概日時計は葉肉あるいは維管束系の概日時計よりも細胞どうしが強く共役していることが明らかにされ,植物の器官ごとに階層的な差異の存在することが確認された.

6.茎頂の概日時計は根の概日リズムの制御にかかわる

 茎頂の概日時計がほかの器官の概日リズムを制御している可能性について検証するため,レーザーマイクロダイセクション法により植物から茎頂だけを切除し,シュートおよび根を分離することなく別々に観察した.これまで,恒明条件におかれた植物の全体の概日リズムは徐々に減衰し波形に広がりがみられることが報告されていたが6),茎頂の概日リズムは7日間以上も恒明条件においても維持され,茎頂における細胞のあいだの共役が恒明条件において概日リズムの頑健性をもたらしていることが考えられた.茎頂を切除した植物のシュートの概日リズムにおいては,単離された葉のような位相の前進がみられた.一方,葉を切除した植物と切除していない植物とでは概日リズムにほとんど差異はみられなかった.
 光合成に由来するスクロースが概日時計の制御にかかわるという報告から11),光合成の阻害剤を用いて実験したところ,シュートにおける概日リズムに遅れが生じ,最終的には概日リズムが消失することが観察された.また,シュートのみに光合成の阻害剤を添加しても,シュートおよび根の両方の概日リズムに遅れおよび消失がみられた.この結果より,光合成によるシュートからのシグナルが根の概日時計にとっても重要であることが示された.分離した茎頂に光合成の阻害剤を添加すると概日リズムに減衰がみられたが,シュートあるいは根において観察されたような概日リズムの遅れは観察されなかった.茎頂は試薬による光合成の阻害への頑健性が高いことが示された.
 また,原形質連絡が狭められ細胞のあいだの物質輸送が阻害されたcals3-d変異体12) と野生型の植物とのあいだでは,根の概日リズムに明らかな差異がみられた.この結果からも,シュートと根とのシグナル伝達が根の概日リズムに影響を及ぼすことが示された.
 シュートから根を途中で切り離すと根の概日リズムに変化がみられ,茎頂を切除した植物では根の概日リズムに遅れおよび減衰のみられることもわかった.また,明暗条件から暗明条件へと位相をずらす実験において,植物の全体から分離されていない根における概日リズムの再同調のパターンは,葉よりも茎頂のパターンに近いことも確認された.これらの結果から,茎頂の概日時計が根の概日リズムにかかわることが示された.

7.シロイヌナズナの概日時計のコアには階層的な構造がある

 植物の概日時計の系が階層的であることをはっきり確かめるため,シロイヌナズナの芽生えに対し接ぎ木をした.野生株の茎頂と野生株の根とを接ぎ木したところ,接ぎ木していない植物と同様の概日リズムが観察され,接ぎ木それ自体は概日リズムに大きな変化を及ぼさないことが示された.茎頂に概日時計の機能の異常があると根の概日リズムにも影響するのではないかと考え,概日リズムの失われたcca1/lhy二重変異体あるいはelf3変異体の茎頂を野生株の根に接ぎ木したところ,根の概日リズムが不明瞭になった.逆に,野生株の茎頂をcca1/lhy二重変異体あるいはelf3変異体の根に接ぎ木したところ,根の概日リズムに回復がみられた.回復の程度には幅があったが,接ぎ木していない変異体の根において観察される無周期の状態とは明らかに異なるものであった.以上の結果から,茎頂からのシグナルが根の概日リズムにとり非常に重要であることが明らかにされた.

おわりに

 この研究により,シロイヌナズナにも哺乳類のような概日時計の階層的な構造が存在し,茎頂がその頂点を担うことが示された(図1).今後,概日時計どうしの結びつきのしくみ,茎頂からおのおのの器官へのシグナル伝達経路およびシグナル伝達物質が明らかになり,植物の生理的な機能や発達についての時空間的な知見が深まることを期待している.

figure1

文 献

  1. Aton, S. J. & Herzog, E. D.: Come together, right…now: synchronization of rhythms in a mammalian circadian clock. Neuron, 48, 531-534 (2005)[PubMed]
  2. Endo, M., Shimizu, H., Nohales, M. A. et al.: Tissue-specific clocks in Arabidopsis show asymmetric coupling. Nature, 515, 419-422 (2014)[PubMed] [新着論文レビュー]
  3. James, A. B., Monreal, J. A., Nimmo, G. A. et al.: The circadian clock in Arabidopsis roots is a simplified slave version of the clock in shoots. Science, 322, 1832-1835 (2008)[PubMed]
  4. Harrington, M.: Location, location, location: important for jet-lagged circadian loops. J. Clin. Invest., 120, 2265-2267 (2010)[PubMed]
  5. Hughes, M. E., Hogenesch, J. B. & Kornacker, K.: JTK_CYCLE: an efficient nonparametric algorithm for detecting rhythmic components in genome-scale data sets. J. Biol. Rhythms, 25, 372-380 (2010)[PubMed]
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生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.

著者プロフィール

高橋 望(Nozomu Takahashi)
略歴:スペインCentre for Research in Agricultural Genomics博士課程 在学中.
研究テーマ:植物における概日時計の器官特異性および組織特異性.
関心事:カタルーニャ文化.

Paloma Mas
スペインConsejo Superior de Investigaciones CientíficasにてResearch Professor.
研究室URL:
http://www.cragenomica.es/research-groups/molecular-mechanisms-of-circadian-clock-function

© 2015 高橋 望・Paloma Mas Licensed under CC 表示 2.1 日本


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