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紡錘体形成チェックポイントタンパク質Mad1はキネシンをキネトコアにつなぎとめることにより染色体の整列を促進する

2015年9月8日

明楽隆志・渡邊嘉典
(東京大学分子細胞生物学研究所 染色体動態研究分野)
email:明楽隆志
DOI: 10.7875/first.author.2015.103

Mad1 promotes chromosome congression by anchoring a kinesin motor to the kinetochore.
Takashi Akera, Yuhei Goto, Masamitsu Sato, Masayuki Yamamoto, Yoshinori Watanabe
Nature Cell Biology, 17, 1124-1133 (2015)

要 約

 遺伝情報であるゲノムDNAを子孫に正しくひき継ぐためには,分裂期における正確な染色体分配が必須である.細胞は染色体を分配するため,紡錘体という微小管からなる分配装置を備えている.染色体は紡錘体のうえを動きまわったのち,紡錘体の赤道面に整列する.この染色体の整列は,そののち,染色体が娘細胞に正しく分配されるのに必須の過程である.しかしながら,染色体の整列を達成する機構については未知の部分が多かった.今回,筆者らは,染色体の整列が完了したことをチェックする機能をもつタンパク質Mad1が,染色体の整列を促進する役目もあわせもつことを発見した.Mad1は微小管のうえを移動するモータータンパク質であるキネシンを整列していない染色体に局在させて,染色体を紡錘体の赤道面に輸送させていた.また,この機能は酵母からヒトまで進化的に保存されていたことから,真核生物の細胞分裂において根幹をなす分子機構であると考えられた.

はじめに

 細胞が分裂期に突入すると分配装置である紡錘体が構築され,姉妹染色分体は娘細胞へと均等に分配される(図1).分裂前中期および分裂中期において姉妹染色分体は両方の極から伸長してきた紡錘体微小管によりしだいに捕捉され,分裂後期において分離する1).姉妹染色分体を均等に分離するためには,染色体のキネトコア(動原体)と紡錘体微小管との正しい結合が必要であり,そのためには,紡錘体の赤道面への染色体の整列が不可欠である2).この染色体の整列の過程に異常があると染色体の不均等な分配および細胞死が誘発されることになるので,実際には,細胞は整列していない染色体が存在した状態のまま分裂後期に移行しないよう細胞周期を一時停止させる監視機構を備えている.この紡錘体形成チェックポイントとよばれる機構は3),整列していない染色体のキネトコアを感知し,細胞周期を停止させるシグナルを細胞内に拡散させるはたらきをもつ(図1).この染色体の整列を監視する機構の理解が進む一方で,実際に染色体の整列を促進する分子機構については未知の点が多く残されていた.

figure1

 紡錘体形成チェックポイントにおいて中心となるタンパク質であるMad1は,紡錘体微小管に結合していないキネトコアに局在し,Mad2を活性化することにより細胞周期を停止させる4,5).このMad1はいくつかの生物において紡錘体形成チェックポイントのほかにも機能をもつ可能性が示唆されていたが,具体的な解析はされていなかった6)

1.分裂酵母においてMad1はCut7をキネトコアに局在させる

 分裂酵母において,Mad1の破壊株およびMad1がキネトコアに局在できない変異株は,その下流のタンパク質であるMad2の破壊株と比較して染色体分配に異常の起こる頻度の高いことが知られていた7).これは,Mad1がキネトコアにおいて,Mad2の活性化だけではなく染色体分配に必要なほかの機能も担っている可能性を示唆した.そこで,Mad1のもつ紡錘体形成チェックポイントのほかの機能について探るため,分裂酵母においてMad1と相互作用するタンパク質を酵母ツーハイブリッド法によりスクリーニングした.その結果,Mad1と相互作用するタンパク質のひとつとしてモータータンパク質であるキネシンのひとつCut7/kinesin-5が同定された.Cut7は紡錘体に局在しその双極性を確立するのに必須のタンパク質であるが,そのほかの機能は知られていなかった8).分裂期においてCut7の局在を観察したところ,Mad1と同様に微小管と結合していないキネトコアに局在していた.また,Cut7と結合できないMad1の変異株の解析から,Cut7はMad1と直接的に結合することによりキネトコアにつなぎとめられていることが判明した.

2.キネトコアに局在するCut7は染色体の整列を促進する

 微小管と結合していないキネトコアに局在したCut7は,どのような機能を担うのだろうか.Cut7は紡錘体の形成に必須であるため,その破壊株は致死でありキネトコアにおけるCut7の機能解析は不可能だと考えられた.そこで,Cut7と結合できないMad1の変異株を用いて,Cut7のキネトコアにおける機能を探索した.Cut7がキネトコアに局在できない変異株について,分裂期においてライブイメージング法により観察したところ,紡錘体の赤道面に整列できない染色体がみられた.また,この変異株における染色体の整列の異常はCut7がキネトコアに局在できなくなったことに起因するのかどうかを確かめるため,Cut7をMad1に依存することなく人工的にキネトコアにつなぎとめた.これにより染色体の整列の異常は回復したことから,Cut7のキネトコアにおける機能は染色体の整列にあると結論された.

3.Cut7は染色体を微小管のプラス端にむかって輸送することにより染色体の整列を促進する

 Cut7がどのようにして染色体の整列を促進しているかについて検討した.Cut7を含むキネシンは,一般的に微小管のプラス端にむかって移動する.双極性の紡錘体にある微小管は,大雑把にいって紡錘体の赤道面にプラス端,紡錘体の極にマイナス端をむけた配向をとる.つまり,紡錘体の極において整列していない染色体に局在したCut7が微小管のプラス端にむかって移動すると,結果として,染色体を紡錘体の赤道面に輸送することになると推察された.この仮説を確かめるため,微小管のマイナス端からプラス端への染色体の動きを観察するのに適した単極性の紡錘体を用いた系を構築した.単極性の紡錘体において染色体の動きを詳細に追跡したところ,Cut7がキネトコアに局在できない場合には染色体が微小管のプラス端にむかって動く頻度がいちじるしく低下した.したがって,Cut7は染色体を微小管のプラス端にむかって輸送することにより染色体の整列に寄与していると示唆された.また,これまでの結果から,Cut7を介した染色体の整列こそがMad1のもつ紡錘体形成チェックポイントのほかの機能であることがわかった(図2).

figure2

4.ヒトにおいてもMad1は染色体の整列を促進する

 Mad1は真核生物に広く保存されたタンパク質であるため,Mad1による染色体の整列の機構も進化的に保存されている可能性があった.この可能性をヒトの培養細胞であるHeLa細胞を使い検討したところ,Mad1をノックダウンしたHeLa細胞においては整列していない染色体が多く観察された.したがって,ヒトにおいてもMad1は染色体の整列に必要であるといえた.そこで,分裂酵母の場合と同様に,Cut7のヒトにおけるホモログであるEg5がMad1によりキネトコアに局在しているかどうか検討したが,Eg5はキネトコアには局在しなかった.そこで,キネトコアに局在し染色体の整列に必要であることが報告されていたCENP-E/kinesin-7に着目した9).Mad1をノックダウンしたHeLa細胞においてCENP-Eのキネトコアへの局在を観察したところ,顕著に減弱していた.このことから,Mad1はヒトにおいてもキネシンをキネトコアにつなぎとめることにより染色体の整列を促進すると示唆された.よって,分裂酵母およびヒトにおいて染色体の整列の分子機構は保存されており,紡錘体形成チェックポイントの中心となるMad1は,染色体の整列をチェックするだけでなく,染色体の整列を直接的に促進していることが明らかにされた.

おわりに

 紡錘体の赤道面に整列できず紡錘体の極に取り残された染色体は,時間的な猶予を得るため紡錘体形成チェックポイントを活性化すると同時に,染色体の整列を促進するためキネシンをキネトコアへ局在させる.この同時に必要性の生じる2つの分子機構をMad1というひとつのタンパク質が制御していることは,非常に理にかなっている.また,分裂酵母とヒトにおいて,染色体の整列に異なるキネシンを用いている点も興味深い.ヒトを含めた高等生物において染色体の整列に寄与するCENP-Eは,酵母においてホモログがみつかっていない.CENP-EはCut7あるいはEg5と比べ3倍以上も長いストークをもち,最近,この並外れて長いストークがヒトの染色体を輸送するのに必要であることが明らかにされた10).ヒトの染色体は酵母に比べいちじるしく大きなキネトコアを形成することを考えると,高等生物において染色体を整列するために,適応進化によりCENP-Eが誕生したことが示唆される.染色体分配の異常はがんにおいてよく観察される.また,Mad1やCENP-Eをコードする遺伝子の変異はがんにつながることが報告されていることから,この研究はがんの発症機構の観点からも注目される.

文 献

  1. Cheeseman, I. M. & Desai, A.: Molecular architecture of the kinetochore-microtubule interface. Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 9, 33-46 (2008)[PubMed]
  2. Kapoor, T. M., Lampson, M. A., Hergert, P. et al.: Chromosomes can congress to the metaphase plate before biorientation. Science, 311, 388-391 (2006)[PubMed]
  3. Musacchio, A. & Salmon, E. D.: The spindle-assembly checkpoint in space and time. Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 8, 379-393 (2007)[PubMed]
  4. Maldonado, M. & Kapoor, T. M.: Constitutive Mad1 targeting to kinetochores uncouples checkpoint signalling from chromosome biorientation. Nat. Cell Biol., 13, 475-482 (2011)[PubMed]
  5. Ikui, A. E., Furuya, K., Yanagida, M. et al.: Control of localization of a spindle checkpoint protein, Mad2, in fission yeast. J. Cell Sci., 115, 1603-1610 (2002)[PubMed]
  6. Emre, D., Terracol, R., Poncet, A. et al.: A mitotic role for Mad1 beyond the spindle checkpoint. J. Cell Sci., 124, 1664-1671 (2011)[PubMed]
  7. Vanoosthuyse, V., Valsdottir, R., Javerzat, J. P. et al.: Kinetochore targeting of fission yeast Mad and Bub proteins is essential for spindle checkpoint function but not for all chromosome segregation roles of Bub1p. Mol. Cell. Biol., 24, 9786-9801 (2004)[PubMed]
  8. Hagan, I. & Yanagida, M.: Kinesin-related cut7 protein associates with mitotic and meiotic spindles in fission yeast. Nature, 356, 74-76 (1992)[PubMed]
  9. Wood, K. W., Sakowicz, R., Goldstein, L. S. et al.: CENP-E is a plus end-directed kinetochore motor required for metaphase chromosome alignment. Cell, 91, 357-366 (1997)[PubMed]
  10. Vitre, B., Gudimchuk, N., Borda, R. et al.: Kinetochore-microtubule attachment throughout mitosis potentiated by the elongated stalk of the kinetochore kinesin CENP-E. Mol. Biol. Cell, 25, 2272-2281 (2014)[PubMed]

生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.

著者プロフィール

明楽 隆志(Takashi Akera)
略歴:2014年 東京大学大学院理学系研究科博士課程 修了,東京大学分子細胞生物学研究所 ポスドクを経て,2015年より米国Pennsylvania大学 ポスドク.
研究テーマ:染色体分配と進化.
抱負:サイエンスを楽しみつづける.

渡邊 嘉典(Yoshinori Watanabe)
東京大学分子細胞生物学研究所 教授.
研究室URL:http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/watanabe-lab/

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