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全能性をもつ細胞に特有の特徴は複製に依存的なクロマチンの構築の消失により誘導される

2015年8月21日

石内崇士・Maria-Elena Torres-Padilla
(フランスInstitute of Genetics and Molecular and Cellular Biology,Program of Development and Stems Cells)
email:石内崇士
DOI: 10.7875/first.author.2015.101

Early embryonic-like cells are induced by downregulating replication-dependent chromatin assembly.
Takashi Ishiuchi, Rocio Enriquez-Gasca, Eiji Mizutani, Ana Bošković, Celine Ziegler-Birling, Diego Rodriguez-Terrones, Teruhiko Wakayama, Juan M. Vaquerizas, Maria-Elena Torres-Padilla
Nature Structural & Molecular Biology, 22, 662-671 (2015)

要 約

 哺乳類の発生は精子と卵子とが受精し受精卵を形成することにはじまる.そして,受精卵は分割をくり返して胚発生を進行させていく.マウスにおいて,受精卵および2細胞期胚はひとつの細胞から個体を形成する能力をもち,この能力は全能性とよばれる.全能性をもつ細胞はいくつか特有の特徴をもつことが知られているが,これらがどのように獲得および維持されているのかについてはまったくわかっていない.今回,筆者らは,2細胞期様細胞とよばれる細胞が全能性をもつ細胞に特有の特徴をもつこと,かつ,これらが複製に依存的なクロマチンの構築に必須であるCAF-1のノックダウンにより誘導されることを見い出した.この発見は,将来的に可能になるであろう全能性をもつ細胞の誘導法の確立に貢献することが期待される.

はじめに

 哺乳類の発生は精子と卵子とが受精し受精卵を形成することにはじまる.受精卵は分割をくり返し,2細胞期胚,4細胞期胚,8細胞期胚,桑実胚,胚盤胞と段階的に胚発生を進行させていく.マウスにおいて,受精卵および2細胞期胚はひとつの細胞から完全な個体を形成する能力をもち,この能力は全能性とよばれる.全能性は2細胞期よりのちには失われ,胚はより限定された能力である多能性をもつようになる.多能性とは,三胚葉へと分化できる能力のことである.胚盤胞に存在する多能性細胞は培養皿において維持することが可能で,この細胞はES細胞(embryonic stem cell,胚性幹細胞)とよばれる.このin vitroにおける実験系の存在により,多能性がいかに制御されているのかについて多くの知見が得られている.さらに,これらの知見はiPS細胞(induced pluripotent stem cell,人工多能性幹細胞)の誘導というブレークスルーをもたらした1).一方,これら多能性の理解とは対照的に,全能性に関してはほとんど何も理解されていない2).そこで,筆者らは,全能性の制御の機構を調べる手がかりとして全能性をもつ細胞に特有の特徴を見い出すことをめざし,そして,この特徴がどのような分子機構により制御されているのかを探った.

1.全能性をもつ細胞に特有の特徴をみつける

 全能性をもつ細胞に特有の特徴を調べる方法として,全能性をもつ受精卵あるいは2細胞期胚とES細胞や体細胞とを比較し,全能性をもつ細胞のみにみられる特徴を見い出すという手段が考えられたが,これらの細胞にくわえて,全能性様の細胞とされる2細胞様細胞も比較の対象にした.2細胞様細胞とは,ES細胞の培養において1%以下の割合で存在する,2細胞期胚に特異的に発現するMERVLというレトロトランスポゾンを発現する細胞である3).以前の報告では,2細胞様細胞は胚および胚体外組織のどちらにも分化できることが示されており,全能性様の性質をもつとされている.2種類の全能性(様)細胞を比較の対象としたのは,全能性に関連する特徴をより絞り込めるのではないかと考えたからであった.
 2細胞様細胞とES細胞とを比較し,2細胞様細胞に特有の特徴が受精卵あるいは2細胞期胚と共通するかどうか調べた.2細胞様細胞に特有の特徴は免疫染色により容易にみつかった.しかも,抗体を用いなくても,DAPIというDNAを可視化する一般的な試薬のみでも検出が可能であった.ES細胞およびほとんどの体細胞の核には染色中心(chromocenter)とよばれるDAPIにより強く染色されるスポット状の構造物が存在する.これは,染色体のセントロメアの近傍に存在するメジャーサテライトとよばれるATリッチなリピート配列がヘテロクロマチン化していることに起因するものである.この染色中心は,2細胞様細胞の核にはほとんど形成されていなかった.また2細胞様細胞においてはメジャーサテライトからの転写の量の多いことも見い出された.これまで,受精卵あるいは2細胞期胚の核には染色中心は形成されず,また,メジャーサテライトからの転写の量の多いことがわかっており4),染色中心がなくメジャーサテライトからの転写の量が多いことが全能性をもつ細胞と2細胞様細胞とに共通する特有の特徴であることが見い出された.

2.全能性をもつ細胞に特有の特徴の誘導

 全能性(様)細胞には染色中心がないことから,この特徴を誘導することによりES細胞から2細胞様細胞を誘導できるかどうか調べた.細胞の核から染色中心を消失させる方法として,CAF-1とよばれる複合体を構成するタンパク質をノックダウンした.これは以前に,ES細胞においてCAF-1の構成タンパク質であるp150をノックダウンすることにより染色中心が消失することが報告されていたからである5).実際に,ES細胞においてp150をノックダウンすると染色中心が消失し,メジャーサテライトからの転写の量も増加した.また,p150をノックダウンすると通常は1%以下しか存在しない2細胞様細胞が30倍ほど増えることも見い出された.
 染色中心がなくメジャーサテライトからの転写の量が多いという特徴の誘導は,2細胞様細胞の誘導に十分なのだろうか? この疑問に答えるため,ツールとして人工的なDNA結合タンパク質であるTALEを用いた.メジャーサテライトに結合するTALEにVP64という転写活性化ドメインを融合させたタンパク質を発現させると,染色中心の消失およびメジャーサテライトからの転写の量の増加が誘導されたが,2細胞様細胞が増えることはなかった.つまり,染色中心の消失とメジャーサテライトからの転写の量の増加のみでは2細胞様細胞の誘導には十分ではないことがわかった.

3.なぜCAF-1のノックダウンにより2細胞様細胞は増えるのか

 CAF-1は複製フォークに局在しそこにヒストンH3-ヒストンH4複合体を配置するという複製に依存的なクロマチンの構築を担うことが知られている.また,CAF-1の構成タンパク質であるp150はそこのクロマチンの構築に必須のドメインをもつことがわかっている.なぜp150をノックダウンすると2細胞様細胞が増えるのかについて調べるため,このドメインをもつあるいはもたないp150を用いてレスキュー実験を行った.その結果,クロマチンの構築に必須なドメインをもつp150はノックダウンの表現型をレスキューしたが,そのドメインを欠くp150はレスキューしないことがわかった.これらの結果から,複製においてCAF-1のもつクロマチンの構築の活性が消失することにより2細胞様細胞が増えることが示唆された.

4.CAF-1をノックダウンしたES細胞における遺伝子発現の変化

 CAF-1のノックダウンにより遺伝子の発現にどのような変化がみられるのかを調べるためRNA-seq法により解析した.リピート配列における遺伝子発現の変化をみたところ,2細胞期胚において特異的に発現するレトロトランスポゾンMERVLに関連するリピート配列およびメジャーサテライトからの発現が,CAF-1をノックダウンしたES細胞においても特異的に上昇していた.また,ゲノムワイドな遺伝子発現の変化について調べたところ,2細胞期胚において特異的に発現する遺伝子が,CAF-1をノックダウンしたES細胞においても発現が上昇していた.また,よりくわしい解析により,これらCAF-1をノックダウンした細胞において発現の上昇する2細胞期胚と共通する遺伝子は,MERVLに関連するリピート配列の近傍に位置していることがわかった.これらの結果は,CAF-1のノックダウンにより発現の上昇する2細胞期胚と共通する遺伝子は,MERVLと関連するリピート配列の転写の活性化が原因となりその発現の上昇がひき起こされることが示唆された.

5.2細胞様細胞のクロマチンの状態とその重要性

 2細胞様細胞には染色中心がないこと,また,2細胞様細胞はCAF-1のノックダウンにより誘導されることから,2細胞様細胞のクロマチンはES細胞のクロマチンとは異なる状態にあることが推測された.そこで,ES細胞の核および2細胞様細胞の核を集めてミクロコッカスヌクレアーゼにより処理することにより,クロマチンのアクセスしやすさについて調べた.その結果,2細胞様細胞のクロマチンはES細胞のクロマチンよりもアクセシビリティが高くよりオープンな状態にあることがわかった.
 このクロマチンの状態が初期胚の発生において重要な役割をはたすのかどうか調べるため,マウスの卵への核移植実験を行った.これまで,マウスの卵への核移植においてドナーとして受精卵あるいは2細胞期胚という全能性をもつ細胞の核を用いると胚の発生率が非常に高くなることが知られていたため,2細胞様細胞に特有のクロマチンの状態が初期胚と類似しているなら,胚の発生率も高くなるのではと考えたのである.実際に,ドナーとして2細胞様細胞の核を用いると,ES細胞の核と比べ胚の発生率は上昇した.また,CAF-1のノックダウンにより誘導した2細胞様細胞の核をドナーとしたときも,同様に高い胚の発生率を示した.これらの結果から,CAF-1のノックダウンにより誘導の可能な2細胞様細胞に特有のクロマチンの状態が,胚発生のごく初期の段階において重要な役割をもつことが示唆された.

おわりに

 以上の結果から,複製に依存的なクロマチンの構築が消失することにより2細胞様細胞が誘導され,この2細胞様細胞は2細胞期胚と共通の特徴をもつことが示された(図1).これらの結果から,全能性をもつ細胞においてはなんらかの独特なクロマチンの制御機構の存在することが推測された.実際に,全能性をもつ細胞の核には通常の細胞の核に存在するヘテロクロマチン構造があまり認められず,かなり特殊なクロマチンの状態にあることが示唆されている6).今回の結果は,ひとつの細胞から個体を形成できるという厳密な定義での全能性の誘導にはほど遠いが,全能性をもつ細胞に特有の特徴が部分的には誘導された.このような試みをくり返すことにより真の全能性の誘導に近づけるのではないかと考えている.

figure1

文 献

  1. Takahashi, K. & Yamanaka, S.: Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors. Cell, 126, 663-676 (2006)[PubMed]
  2. Ishiuchi, T. & Torres-Padilla, M. E.: Towards an understanding of the regulatory mechanisms of totipotency. Curr. Opin. Genet. Dev., 23, 512-518 (2013)[PubMed]
  3. Macfarlan, T. S., Gifford, W. D., Driscoll, S. et al.: Embryonic stem cell potency fluctuates with endogenous retrovirus activity. Nature, 487, 57-63 (2012)[PubMed]
  4. Aguirre-Lavin, T., Adenot, P., Bonnet-Garnier, A. et al.: 3D-FISH analysis of embryonic nuclei in mouse highlights several abrupt changes of nuclear organization during preimplantation development. BMC Dev. Biol., 12, 30 (2012)[PubMed]
  5. Houlard, M., Berlivet, S., Probst, A. V. et al.: CAF-1 is essential for heterochromatin organization in pluripotent embryonic cells. PLoS Genet., 2, 1686-1696 (2006)[PubMed]
  6. Boskovic, A., Eid, A., Pontabry, J. et al.: Higher chromatin mobility supports totipotency and precedes pluripotency in vivo. Genes Dev., 28, 1042-1047 (2014)[PubMed]

生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.

著者プロフィール

石内 崇士(Takashi Ishiuchi)
略歴:2011年 京都大学大学院生命科学研究科 修了,同年 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター ポスドクを経て,2012年よりフランスInstitute of Genetics and Molecular and Cellular Biologyポスドク.
研究テーマ:初期胚のエピジェネティクス.
抱負:おもしろい研究を発信したい.

Maria-Elena Torres-Padilla
フランスInstitute of Genetics and Molecular and Cellular BiologyにてGroup Leader.
研究室URL:http://www.igbmc.fr/torres-padilla/

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